第11話 くらやみのあのこ1
短編小説だったから、書くのにはそんなに時間がかからなかった。
ファンタジーじゃなくて現実の、それも身近なひとをモデルにするってむずかしいかなって思ったけど、先輩を書くのはびっくりするくらい楽しくてスルスルってストーリーが思いうかんだ。
書きあげてから何度も読み直して、修正して、応募のきまりをしっかり読んで、投稿ボタンを押した。
六月末にしめ切られたコンテストは、夏休みが終わる九月の初めに結果が発表されるらしい。
応募してからしばらくは、はじめて参加したコンテストにソワソワして、更新されるはずのないページを毎日見ていた。
しばらくたつと気持ちが落ちついて、応募したことをあまり意識しなくなった。
***
学校が夏休みに入ってからも、わたしは読書をしたり宿題をするために閲覧室に通っている。一年生のときもそうしてた。
だけど去年とちがうところがある。
「宙先輩ってヒマなんですか?」
「ひでー。夏休みこそ読書のチャンスじゃん。自分だって毎日来てるくせに」
「わたしはヒマ人なので」
先輩とは約束したわけじゃないけど、ほぼ毎日閲覧室でいっしょに過ごしてる。
「この作家さんの新作読みました?」
「いや、まだ」
「わたしはもう読んだので、よかったらどうぞ」
「サンキュー」
最初のころからは考えられないくらい、先輩とふつうに話してる。声ももう、か細くなったりしないで、〝友だち〟ってひびきにもなれてきた。
「空、それ似合ってるね」
先輩に言われて、ちょっとはずかしくなっておでこを手でかくす。
「なんでかくす?」
「あらためて言われるとはずかしいです」
夏休みのあいだ、閲覧室にいるときだけは前髪をヘアピンでとめてみることにした。
『空はもっと、自分に自信を持ったほうがいい。顔だってこんなふうにかくさないでさ』
先輩が言ってくれたから。
「せっかくかわいいのに」
先輩ってこういうこと、言いなれてるのかな。わたしには先輩がどういうつもりかわからなくて、ついついはずかしくなっちゃうけど。
今日は少し、気が重いことがある。
「それ、読書感想文?」
「はい」
二人分の名前が書かれた原稿用紙をひろげる。
手元には感想用の本も二冊。
「今回だけ書いて、ぜったい最後にします」
これを書いて提出するころには、コンテストの結果が出る。入賞すればもうこんなことはやめるから、これで最後になるって信じてる。
アユちゃんとは、コンテスト用の作品を書いてるあいだも、応募してからも、ずっとふつうにしてきた。
作文だって生徒会長用のスピーチ文だって、たのまれればひきうけた。
だけど、宙先輩のお話を書いてから、あんなにキラキラして見えていたアユちゃんの笑顔が暗い影をかぶったみたいにモヤモヤして見えるようになった。
先輩は、コンテストの応募作品も読んでくれた。
自分がモデルの主人公がはずかしい、とは言ってたけど、読み終えたときに感想はくれなかった。
『感想はコンテストの結果が出たら言う』って言って。
だけど『ぜったい入賞できる』とも言ってくれて、わたしにはなぜかそれが100パーセント信じられた。
***
夏休みが終わりに近づいてコンテストの結果が気になりはじめて、また小説サイトを何度も何度もクリックした。
こういうのって、先に連絡がきたりするのかな?
九月の初めに発表ってことは、もし先にくるならそろそろ?
はじめての応募で、中学生が入賞なんてムリだったのかなぁ?
……もし、ムリだったとしても……
なんて思いはじめたころだった。
いつも使ってる、パソコンのメールに知らないアドレスからメールがとどいた。
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