第10話 きらきらのきみ2

『空にとって、友だちって何?』

家に帰ってからも、リビングのソファでひざを抱えてボーっとしながら先輩の言葉を思い出してた。

友だちって、ずっと一緒にいて、仲よく笑って話すひと。

アユちゃんはわたしのことを〝友だち〟〝親友〟って言ってくれる。

アユちゃんは、わたしにとって——


『空ちゃん、ずーっと仲良しでいようね』

『ふーん。空ちゃんはアユと友だちじゃなくなってもいいんだ』

『ほんと、空だいすき〜! ずーっと親友でいてね』


アユちゃんの言葉を思い出す。

ずっと気づいてた。アユちゃんがわたしを『友だち』って言うのは、わたしがアユちゃんのお願いを聞いたとき。

生徒会長選の応援演説だって、ほかの候補のひとがみんな〝親友〟にお願いしてるなかでアユちゃんは、アユちゃんの次にかわいい子を選んでお願いしたよね。

アユちゃんの役に立つときだけの〝親友〟。

だけど正直、わたしも友だちってそういうものだってずっと思ってた。

みんなニコニコ笑ってるけど、アユちゃんがひと言言えばわたしのまわりからスーッていなくなる。


だけど先輩は……


『悲しいな〝知り合い〟なんて。俺は空のこと友だちだって思ってるのに』

『学年がちがっても、卒業しても、俺は空の友だちだから』

『クラス中から無視されたって空は独りじゃないよ』


わたしがお願いなんて聞かなくたって、まっすぐな目で〝友だち〟って言ってくれた。


『俺には、加地さんなんかより空のほうがよっぽどきれいでかわいく見える』


胸にだいてたクッションにぎゅーって顔を押しつける。

「あれってどういう意味……?」

思わず声にでる。


『それって、楽しいの?』

クッションに顔をうずめながら、また先輩の言葉を思い出す。

学校は毎日毎日、目立たずにやりすごすところ。

苦しくなければ、楽しくなくたっていいはずの場所。

だけど先輩と知り合って、小説の話ができるようになってからは楽しかったな。

本当の自分を見てもらえてる感じがして。

わたしが書いたものを、わたしが書いたって知ってるひとが読んでくれて。


『空がつむいだ言葉は空のものだよ』


小学四年生の読書感想文は、本当にアユちゃんが大きな賞をとった。

アユちゃんの家でアユちゃんの名前の賞状を見たときは『うれしいね』って笑ったけど、家に帰ってから一人で涙がかれそうなくらい泣いた。

自分の文がとられてくやしくて、アユちゃんがこわくて、何も言えなかった自分がなさけなくて。

ほんとは、あの日から一度も納得なんてしてない。


『俺には空のほうがキラキラして見える』

先輩はああ言ってくれたけど……今の自分がキラキラしてるなんて思えないから、ちゃんとかがやきたい。


***


次の日の放課後。

「先輩、しばらく閲覧室以外では話しかけないでください」

わたしの失礼すぎるお願いに、先輩はむずかしい顔をした。

「加地さんがこわいから?」

「そうです」

先輩はがっかりしたようにため息をつく。

「だけど、もうやめたいんです。そういうの」

「え?」

「先輩が言ってたコンテストに出してみようと思ってて」

「あのサイトの?」

わたしは「はい」と言ってうなずく。

「きっかけがないと、なかなかむずかしいから……このコンテストで賞をとれたら……アユちゃんの名前じゃなくて評価されたら、もうアユちゃんに書くのはやめます。だから、それまでは……」

「賞がとれなかったら?」

「先輩が、とれるって言ってくれたから」

「俺の責任重大じゃん」

先輩は苦笑いをする。

「そうです。だから、とれるって信じててください。そしたらとれる気がするので」

わたしは、おどおどしないで先輩の目を見て言った。

「オッケー。わかった」

笑顔で約束してくれたから、がんばれる気がする。

「でも、ファンタジーじゃない作品は書けないって言ってなかったっけ?」

「それなんですけど、先輩にお願いがあって」

「お願い?」

「先輩を主人公のモデルにさせてください」

「え……」

先輩は、めずらしくはずかしそうで、ちょっと赤くなったりもしてたけど了承してくれた。

「先輩がわたしに言ってくれた言葉も出てくるかもしれないんですけど……使ってもいいですか?」

「なんか言ったっけ? って感じだけど、雨音先生なら、空になら使われて光栄」

先輩がまたキラキラした笑顔をくれる。

「わたし、先輩にあやまりたくて」

それは昨日言ってしまったこと。

「先輩がアユちゃんみたいって言ったこと」

そんなのまちがい。

「先輩とアユちゃんはぜんぜんちがうのに。先輩はキラキラしてるけど、アユちゃんはぜんぜんキラキラしてない。あんなの……自分のかがやきじゃない」

「気にしてないっていうか、キラキラ連呼されるとなんかすげーはずいんだけど」

照れる先輩に、わたしは首を横にふる。

「わたしは、先輩のキラキラを書きたいです」

先輩がわたしにくれたもの、わたしがかたちにする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る