第2話 おばけみたいなわたし2

アユちゃんとは幼稚園がいっしょだったから、もう十年以上のつきあい。

親同士が仲がよくて、自然と家に遊びに行くくらいの仲になっていた。

アユちゃんは子どもの頃からずーっとかわいくて明るくて、何度かいっしょになった学校のクラスではいつもみんなの真ん中がアユちゃんの場所。いつもいろんなことで賞状だってたくさんもらってた。

だけど小学三年生の秋、夏休みの宿題だった読書感想文でわたしが大きな賞をとって、アユちゃんはとれなかった。


***


表彰された日も、アユちゃんの家に遊びにいった。

『いいな〜空ちゃんすごいねー』

アユちゃんにほめられるなんてめったに無いからすごくうれしかったのを覚えてる。

『ありがとう』

『賞状見せて』

『うん』

アユちゃんにねだられて、賞状をひろげて見せた。

『〝会長賞 拝島空〟ふーん』

そう読み上げた声は、どこかつまらなそうな冷たいものだった。

『ねえ、空ちゃんて、本当に表彰されてうれしかった?』

声と同じくらい冷たい目でわたしを見たアユちゃんが言った言葉のイミが全然わからなかった。

『だって空ちゃんて目立つのきらいでしょ? ステージでもキンチョーしちゃってて、見てるアユがハラハラしちゃったもん』

たしかに、全校生徒の前で表彰されるなんてはじめてで、体育館のステージに立ったわたしの足はふるえていた。

『キンチョーしたでしょ?』

『う、うん……』

『本当はステージになんて立ちたくなかったんじゃない?』

『え? えっと……』

『空ちゃんは表彰なんてされたくないはずだよ』

決めつけるみたいに言うアユちゃんがなんだか怖かったけど、だんだんアユちゃんの言うとおりのような気がしてきた。

『空ちゃんは目立たないでアユの横にいるのが一番安心できるはずだよね?』

『え……』

『空ちゃん、幼なじみだからアユが表彰されるのが自慢だって言ってたよね』

わたしはうなずいた。だって本当にそうだから。

『だったら、つぎはアユが作文で表彰されたいな』

そう言って、アユちゃんは賞状を指さした。

『来年は、ここがアユの名前になるようにして』

『え?』

あの時のアユちゃんの全然笑ってなかった顔は、今でもときどき思い出す。

『それまで作文の宿題とかコンクールで練習しよ』

『なんの練習?』

『空ちゃんがアユのために作文を書く練習。アユ、作文て苦手だからうれしいな』

『え、そんなのダメだよ!』

あわてるわたしに、アユちゃんはささやいた。

『空ちゃんが誰にも言わなければ大丈夫だよね』

あのとき、はっきり断ればよかったんだよね。

だけど小学生でもゾクっとするくらいきれいな笑顔が怖くて、わたしからそんな考えをうばった。

わたしは無言でうなずいた。

『空ちゃん、ずーっと仲良しでいようね』

アユちゃんに抱きつかれたわたしの心臓は、バクバクって不安な音を鳴らしてた。


***


最初のうちはずっと怖くてビクビクしてた。

だけどもう、それが当たり前になって、小学三年生のあの日からアユちゃんの作文もスピーチも弁論も、書けるときは全部わたしが書いてる。

だから今回の引退式のあいさつだって、わたしが書くのがいつも通りの自然な流れ。


わたしはあの日から一度も表彰されたことがない。

アユちゃんは自慢の幼なじみで、わたしは……アユちゃんよりも目立っちゃいけないんだってわかったから。



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