おばけなワタシとキラキラのきみ

ねじまきねずみ

第1話 おばけみたいなわたし1

きみに出会えて

わたしの世界はキラキラかがやいた


***


水端附属中みずはしふぞくちゅうに通う二年のわたし、拝島空はいじまそらには誰にもナイショのお楽しみがある。

うちの学校は読書の人気がないのか図書室はいつもほとんど人がいなくて、図書室のとなりの閲覧室は読書や宿題なんかをするにはぴったりの空間。

わたしは塾に通ってないから、放課後はいつもこの白い机で宿題をしている。

それから、この部屋の奥には自由に使えるパソコンが一台ある。あまり知られていないけど(そもそも人がいないけど)ネットにもつながっている便利なパソコン。

五月の陽気がぽかぽか気持ちいい今日も、わたしは閲覧室で過ごしてる。

「今日、最後まで書けるかなぁ」

誰もいないのを良いことに、ときどきひとり言なんかも言ってしまう。わたしって陰キャだなって自分で思う。

人前に出ると声が小さくて、ひょろっと細くて背だって低い、長く伸ばした黒い髪も、ときどき〝映画に出てくるおばけみたい〟なんてからかわれる。

そんな暗め女子のわたしのナイショのお楽しみ、それは小説を書いて小説サイトに投稿すること。

いつも閲覧室のパソコンをつかってこっそり書いてる。

書くのが好きなのはファンタジーもの。現実世界と全然違う世界を自由に作って広げられるところが好き……現実のわたしは、せまい世界のすみっこにしかいられないから。

「わたしも異世界に行ったらすごい力とかもらえるのかな……」

なんて。

このお話はあともう1、2ページ分書いたら終わりかな?

〝キーンコーン……〟

「あ! ヤバい! アユちゃんの時間!」

チャイムの音をきっかけに宿題のプリントとか、小説のメモのノートを急いでカバンにしまう。

アユちゃんを待たせるわけにはいかない。

あわてて帰りじたくをしていたら、「ギィ」って、閲覧室のドアが開いた。

「え……」

びっくりした。だってこの時間、この部屋にわたし以外がいたことなんてほぼ無いから。

入って来たのは見たことがある先輩。背が高くって髪がセンターわけの、アユちゃんたちがイケメンだって言ってた、たしか……サッカー部の人。

って、今のわたしはそんなことよりアユちゃん!

わたしは一応先輩にペコッと無言のあいさつをして小走りで部屋を出た。


「こらー空〜! おそいぞ〜!」

笑顔が明るい誰がどう見てもかわいい女子が、校門の横でわたしに向かって手をふってる。

「アユちゃんごめん」

この子はアユちゃんこと、加地歩夢かじあゆむ。わたしのクラスメイトで幼稚園からのつきあいの幼なじみってやつ。家の方向が一緒だから、アユちゃんの習いごとがない日はいつも一緒に帰ってる。

「また図書室?」

「うん」

「空はほんとに読書が好きだね」

スラッとしているけど高すぎない身長に、大人っぽい体型、クリっとした少しつり目ぎみの小悪魔アイにプルプルのくちびる、地毛なのに光に当たると少し茶色いサラサラセミロング。アユちゃんはいつ見ても100%かわいい。

そんな子が、幼なじみってだけでわたしと並んで歩いてくれて、笑いかけてくれるんだからラッキーだよね。

「生徒会はどうだった?」

アユちゃんはかわいいだけじゃなくて生徒会長もしてて、この学校の主人公って感じがする。

「あ、そうだ。来月の全校集会が三年生の部活の引退式なの。それで生徒会長が代表であいさつすることになったんだけど」

もうなれたはずのアユちゃんの言葉に、一瞬胸がギクっと音をたてる。

「……何文字くらい?」

「んー……原稿用紙2枚分くらい? 先輩たちへの感謝と憧れ? みたいな内容で〜さいしょに文化部のこと、後半で運動部のこと書いて」

「わかった」

「ありがとう! だから空大好き!」

アユちゃんがキラキラした目でわたしに抱きつく。

アユちゃんはスポーツも勉強もだいたい人並み以上にできるけど、作文が苦手。


だからわたしは、アユちゃんの代わりに作文を書く。

アユちゃんの〝ゴーストライター〟ってやつをしてる。

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