第34話 お宝

少年は真剣な顔つきで静かに話し始める。しかしその声は僅かに震えていた。


「ボクは正直に話たいと思います。わざとではなかったとしても、ボクのやったことで沢山の人を負傷させて……。それどころか、命まで奪ってしまったのは事実です。全部話した上でちゃんと罰を受けたいと思います」



男性兵士は声を荒げた。


「おいおい! その覚悟は立派だが、今は止めとけっ。奴らは命がけの戦闘が終わったばかりで、まだ頭に血が上ってる。


それはお前もだっ! クソガキ!! 

無理して強がってるだろ? それとも良い子アピールか? 少し冷静になってから、もう一度ゆっくり考えろ」


男性兵士はベッドごと少年を揺さぶるような勢いで迫るが、寸前で立ち止まる。

少年は何も言い返さずに男性兵士から目を逸らした。

普段ならとっくに手か足を出していそうな女性兵士も、彼らのやり取りを静かに見ている。


男性兵士は話をつづける。


「それとな、報酬分配の件もある。むしろ、そっちの方がヤバイ……」


「……報酬?」


少年は眉をひそめて小さくつぶやく。


「神殿のお宝だよ」


男性兵士は鼻で笑った。


「本来俺たち兵士は報酬の分配で揉めたりはしない。なぜならダンジョン治安総局に全てを納めるからだ。だが今回は違う。このまま組織を抜ける奴が大半だろうからな」


男性兵士は話終えた後、一旦間をおいて衛生兵と工兵の顔を順番に見る。


衛生兵は戸惑い。工兵はしばし思案してから、再確認するように話始めた。


「兵士同士で争奪戦をしかねない危険な状況で、少年の行動とその結果何が起こったのか、それらを全て説明するということは……」


「クソガキのやったことで発生した損害とは別に、成果に見合うだけの正当な取り分もある、って言ってるように聞こえちまうかもな。それどころか喧嘩上等の宣戦布告と受け取る奴もいるかもな」


男性兵士は厭らしく笑いながら答えた。


「そんなこと……」


少年は驚いて反論しようとするが、男性兵士は手を振って遮る。


「言うわけないってか? だがな、クソガキにそのつもりがなくてもどう判断するのかは聞き手しだいだ。というわけで、話し合いには期待できねぇんだ。今は他の奴らに会わない方がいいと思うぜ」


「そうよ坊や。こいつの物言いは気にくわないけど、今は言う通りにしておきなさい」


女性兵士は優しい声で話しかけた。


「……はい」


少し唇をかみしめながらも少年は頷いた。





場の雰囲気を変えるようにして工兵が大袈裟な身振りで話し出す。


「ところで、神殿にあったお宝とはどのようなものだったのですか? 僕はこの足なので、まだ見れてないのですが……」


工兵は松葉杖と添え木を括りつけた足を持ち上げてみせる。

男性兵士もそれまでとは違った明るい口調で応える。


「ああ、遠くからチラっと見ただけだが、あれは……なんか、……凄かったぞ!」


「遠くから?」


不思議そうに工兵が聞く。


「盗みを警戒してのこともあるだろうが、不用意に近づかないように警告が出されていてな。

そうでなくても、もう、なんかコレ、ヤバいってのが見た目で分かるくらい……とにかくスゴイお宝だった」


男性兵士は興奮した声で言った。



「えっと……それは具体的にはどのような?」


工兵は不満げに言った。


「その、エーテルクリスタル? とか何とか……? ダンジョンの核らしいのがあって……」


女性兵士が捕捉しようとするが言葉が続かない。

普段は自信に溢れる二人だが、なぜか頼りなげに目が泳いでいた。


「「……」」


彼らは顔を見合わせて黙る。


「あ、あの……、私も気になるんですけど……」


衛生兵は小さな声で言った。


「クリスタルって言っても、俺たちが思ってるようなでっかい宝石とかじゃ、なくてだな……」


男性兵士がたどたどしく説明する。


「次元境界面……? がむき出しになってて、次元振動子なんかも? ぶわ~って感じで共鳴とかしちゃったり、してなかったり?」


女性兵士も困り顔で説明する。


「そうなんだよ。その辺にグワーってあふれちゃっててさ~、まったく、あれには驚かされたぜ」


男性兵士がなぜか得意げに話す。


「そうそう。五次元物質とか、その……人類未発見の希少物質? がいっぱいあって、それがスゴイ価値があるって……、とにかく、スッゴイお宝なのよ~」


女性兵士も目を輝かせて話す。


「「……?」」


女性衛生兵と少年は顔を見合わせて黙る。


「五次元物質ですか……。おそらく三次元空間に生きてる人間の脳では、それを見てもよく分からなかったという事なんでしょうかね?」


工兵は困ったように言った。


「あの……」


少年がボソッとつぶやく。


「持ち帰ることが出来るんですか? それ……」


「「「「……」」」」


五人は顔を見合わせて押し黙る。


少年が慌てて別の質問をする。


「ま、前に動画サイトで宝箱に武器が入ってて、とか見たんですけど……?」


男性兵士は気を取り直すようにして少々大袈裟に苦笑した。


「残念ながらそういうのはほとんど仕込みらしいな。冒険者どもが言ってたぜ。

それと、奴らはいま出口の調査をしてる」


「ダンジョンから出られるんですか?! 脱出手段はあったんですねっ!!」


工兵は興奮した声で言った。


男性兵士は頷いた。


「ああ、ここから出られることは間違いないらしいぞ。

しかしな……、情けねぇ話だが。

俺たち一般兵は、ダンジョンの核がどんなものなのか? 宝と言われているものが何なのか? 冒険者どもに教えてもらわなければ、本当のことを何も知らないままだったろうな……」


彼はひとつ大きな溜息をついて話をつづける。


「エーテルクリスタルの周辺を立入禁止にしたのも奴らの指示だ。

素人が下手に触ると何が起こるか分からねぇーってな。今も奴らの主導で、出口とその先の安全を確認してる。奴らを丸ごと信用するのは危険だが、いまは他に頼れる人間がいねぇ……」









― ― ― ― ― ―


この作品を読んでくださった皆様に感謝いたします。

初めて手がけた作品であり、至らない点や読みづらい箇所もあるかもしれませんが、皆様のコメントや評価がこれからの執筆活動に大いなる励みとなります。

これからも精進し、つづきをお届けできるよう努力してまいります。


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