第32話 最後の跳躍

結界の内と外、ドローンを中継して少年と工兵が通信をしている。


「これで必用なものは揃いました。あとは作戦を実行するだけです」


少年の姿はあちこち擦り切れてボロボロだった。一方彼の言葉は明瞭で態度からも悲壮感などは感じさせなかった。


「君の予測だと奴は君を殺さないようにしているという話だったが、単にいたぶって遊んでいる可能性もある。その場合はいつ奴の気が変わるかもしれない。

そもそも攻撃がかすっただけでも取り返しのつかない大けがになる。

……最後の確認だ。本当にやるんだね?」


表向き、少年に対して警告と同時に背中を押しているようにも聞こえるが、工兵の言葉の裏には一種のあきらめのようなものが混ざっていた。


「充分すぎるほどに危険は承知してますよ。それでも、ボクは……やります!!」


少年は静かに、しかし決意に満ちた声で答える。


「……わかったよ。お互い、悔いの残らない様に、全ての力を……出し切ろう!!」


工兵も残った気力を全て絞り出すかのごとく覚悟と願いを声にした。


結界を背にして少年はゴーレムと対峙する。

少年は複数本のロケットランチャーとバリスティックシールドを背負っている。

普通ならば重量過多で動けないところだが、彼のユニークスキルによってその重量は無視することが出来た。



ゴーレムに向かって少年は駆ける。

最初の数歩は重たげな足取りだったが徐々に加速してゆく。

そしてある程度勢いが付いたところで、さらにドローンが少年を牽引した。

少年の速度はさらに増していく。


ゴーレムもこちらに向かって突進を始めた。

地面の上を滑るように移動しながら、少年はロケットランチャーを構えてゴーレムに狙いをつける。


ゴーレムを直接ねらっても、驚異的な反応速度で避けられてしまう。

ゆえに少年はゴーレムを狙わない。ゴーレムの進行先となる地面を狙う。

そこにはあらかじめ装填ミスで落としたように見せかけた砲弾袋があった。


少年はロケットランチャーを構えて、砲弾袋に向けて撃った。

砲弾は地面に着弾し、砲弾袋内の弾頭が誘爆する。

大量の土砂が巻き上がり、土煙が舞った。

爆心地にはクレーターができ上がり、その縁は地面がまくれ上がっている。



だがその爆発地点はゴーレムの遥か手前、ちょうど少年とゴーレムの中間地点ぐらいであった。


視界は土煙によって塞がれている。

ゴーレムはただの目くらましと判断したのか、突撃の速度をさらに上げて真っ直ぐ少年に向かってくる。


少年もクレーターに向けて全力で加速をつづける。

少年はバリスティックシールドの上に乗り、クレーターの縁をジャンプ台の代わりにして跳躍した。

その瞬間、少年はクレーターの中心の地面に向けてロケットランチャーを撃つ。

少年はゴーレムの目前で自身が撃った砲弾の爆発に巻き込まれた。


そのロケットランチャーはバックブラストを発生させないタイプの発射器だった。

つまり小型の迫撃砲のようなもので反動が非常に強い。

使い方を誤れば使用者は大けがをするだろう。

しかし少年はその反動を利用して自身の体を浮き上がらせた。

さらに少年を牽引するドローンがタイミングを合わせて全力で上昇する。


そして僅かな間をおいて地面に当たった砲弾が爆発する。


爆風が少年を襲うが、足の下に構えていたバリスティックシールドがそれを防ぐ。

シールドは爆風によって吹き上げられ、少年をさらに高く舞い上げた。

ドローンも上空に向かって全力で少年を引っ張り上げている。


土煙が晴れてきたとき、少年よりも下方に巨大なゴーレムの姿が見えた。



その少年めがけてゴーレムは手を伸ばしてくる。

避けようがないと思われた攻撃に、少年はロケットランチャーを撃った。

少年は砲撃時の反動と爆風を利用して辛くも逃れる。


ゴーレムは手を半分吹き飛ばされながらもさらに腕を伸ばしてくるが、少年はその腕を駆け降りるようにして巨大な背中に降り立った。


今の少年は武器を全て失い、身に着けた防具もボロボロになっている。

今にも意識を失いそうになりながらも、その場にへたり込むようにしてしゃがみ込んだ。


そして少年はゴーレムの岩石の巨体に向かって自身の小さな手の平を押し付けた。



ゴーレムの目前には結界の壁が迫っていたが、いまだ突撃の勢いは失われていない。

ゴーレムは急制動のついでに少年を振り落とそうとする。

だがその巨体はごく僅か……ほんの僅か、たったの1センチではあるが浮き上がっていた。

複数の足を突っ張ろうとするが地面に接地できない。

地面との摩擦を失い自身の挙動と慣性を制御できないまま、猛スピードで結界に突き進む。


しかしこれまでも何回も結界にぶつかっている、その程度の衝撃でゴーレムを破壊することは出来ない。


むしろ取り付いている少年の方が叩きつけられて、即死どころか原型を留めないほどのダメージを負うだろう。確実にそうなると思われた。


が、予想された程の激しい衝撃はなく、スルリとめり込むようにして結界の壁にゴーレムの体が埋没してゆく。


その巨体は結界の外に降り積もった大量の瓦礫を弾き飛ばし、そのまま結界をすり抜けてゆく。


そして完全にゴーレムの体が結界から抜け出た瞬間、結界は金属が割れるような甲高い音を立てて、弾け飛んで、消えた。









― ― ― ― ― ―


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これからも精進し、つづきをお届けできるよう努力してまいります。


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