第31話 作戦

発射された砲弾はゴーレムの移動予測地点に向かって正確に飛んで行った。

だが、その確実に当たると思われた攻撃をゴーレムはあっさりと避けてしまう。


「なにっ!」


工兵は驚愕した。


「えっ!! 今……砲弾の弾道を見てから、避けた……?」


少年は呆然とつぶやいた。



「そんなバカな……。ライフルの弾速に比べれば遅いとはいえ、銃口初速でも秒速115メートル、最大秒速300メートル以上あるんだぞ、それをあの巨体で……」


工兵も信じられないという声で言った。




それぞれがショックを受けながらも再度挑戦する。だが、またしても同じように避けられてしまう。




「く、くそっ! それなら……」


工兵は今まで通り結界の壁にゴーレムがぶつかるように誘導しようとした。


一度目は誘いに乗る素振りすら見せない。二度目はわざと誘いに乗るフリをしつつ逆に工兵を追いつめようとしてきた。


その後も様々なフェイントなどを仕掛けるがゴーレムはそれを学習して逆に利用しようとまでしてくる。回数を重ねるごとに効果が薄れるどころか逆効果となっていった。


少年も隙を見つけては砲撃するが、ドローンに引きずられながらの不安定な姿勢ではまともに狙いすら付けられない。少年はあっという間に手持ちの砲弾を撃ちつくしてしまった。


「くそっ、これじゃどれだけ撃っても当たらない!! なんでNLAWが全部使用済みでRPGが放棄されていたのか分かったよ」


工兵は吐き捨てるかのように言った。


「じ、じゃ……、どうすれば?」


少年も思わず聞き返してしまう。

工兵は苦渋に満ちた声で答えた。


「逆に考えるんだ。無誘導の対戦車擲弾の類は他にもまだ沢山残されてる可能性が高いってことだ。だから、それを活かして……。真正面から、撃つんじゃなくて。な、何か工夫できれば……」


工兵は作戦の続きを話そうとしたが、その言葉は途切れてしまう。


「今はとにかく、RPGの砲弾と……他の使えそうな武器とか、何かを探してみよう」


結局良い案が出ないらしく曖昧に誤魔化してしまった。


そうやって少年と会話し作戦を考えている間も工兵は必死にドローンを操縦している。


これまでとは違い、ゴーレムの危険度は格段に高まっていた。

工兵の余裕はさらに失われていく。


一方少年は怪我が増えて体力的にも苦しそうだが、むしろ逆に命の危険すら厭わない行動力で新たな砲弾とロケットランチャーを手に入れることに成功していた。


「RPGの砲弾は見つけました。それと、これも使えますか?」


少年はドローンのカメラに武器を見せる。


「それはバックブラストを……発生させないタイプの発射器だよ。っ……。背後に空間がない場所でも発射できる。しかし君には反動が……大きすぎるかもしれないね」


工兵はドローンの操作に集中しつつも少年の質問に答える。


「反動…………」


少年はつぶやく。



工兵はギリギリの操作でゴーレムの突撃を避ける。

しかし今は避ける方向を予測して瓦礫を投げつけてくるような攻撃までしてきていた。際どい操縦を続けながらも工兵は少年に声を掛ける


「もう無理に奴を狙わなくていい、足元の地面を……狙って土煙で目くらましをしてみよう。ついでに奴の進行速度を少しでも遅らせてもう一度、神殿を……盾にして避難しよう」


「でもそれは最初と同じ状況になるんじゃないですか? うぐっ。加速できる場所がないとドローンによる牽引も生かせないし」


少年も痛みに耐えつつ会話をしている。


「ああ、わかってる。しかし奴の行動パターンは……以前と変わってしまった。明らかに……知性を感じさせる動きをしている。ざ、残念だが……ドローンで牽引するだけでは……もう……」


ドローンの操縦に集中しているためだろうか、工兵の言葉は途切れ途切れになってゆく。彼はもはや少年に励ましの言葉を掛けれないほど切羽詰まっていた。

工兵の焦りと動揺はもはや隠しようもなく、少年よりも先に心が折れかけているようだった。


少しの沈黙の後、少年が言葉を発した。


「そうですね。工兵さんにこれ以上無理をさせるわけには……」


工兵は慌てて少年の言葉を遮る。


「ちがう! ま、まってくれ。他に何か……作戦を……」


「いえ……、ボクのことはもう見捨ててもらって構いません」


少年は強い口調で言い切る。工兵がまた遮ろうとするが少年は構わずに話を続ける。


「ゴーレムは未だに本気を出していない様に見えます。

その気になればすぐに殺せるのに、わざわざボクを活かしておく理由。それは、ボクが生きている限り、他の人が結界の中に入ることが出来ないから。ぐふぅ……つ」


少年のうめき声で会話が一時中断する。


「ゴ、ゴーレムは何度倒しても復活する。外で戦ってる冒険者や兵士がいくら強くても砲弾が尽きればどうしようもなくなる。

そうなる前にボクの代わりにゴーレムを倒せる実力を持った人を結界内に送ることが出来れば……」


「それは少年が……死ぬってことだろ!? それは絶対にダメだ!!」


工兵が感情的に叫ぶが、少年は冷静な声で返答する。


「ボクだって、まだ完全に諦めたわけではないですよ。だから、最後にひとつ……試したいことがあります」


「最後に、という部分には同意できないが、作戦があるなら聞かせてくれ」


工兵は落ち着きを取り戻そうと声のトーンを抑えつつ少年に尋ねる。





少年は作戦を全て説明した。




「それは……無茶だよ……」工兵は重苦しく答えた。




「このまま……、役立たずのまま終わりたくないんです。一緒に頑張ろうって、言ってくれたのは工兵さんじゃないですか?」


少年が訴えるように言う。


「……」


工兵は沈黙した。己の無能を責める様な歯ぎしり。何も言わずとも工兵の苦悩が伝わってくる。


「どうせ殺されるにしても、やるだけやって……納得できる死に方をしたいんです。だから、やらせてください!」


少年の言葉はもはや懇願であった。

長い溜息をひとつして工兵は返答する。


「わかったよ……。一緒に、やれるだけのことを……やってみようじゃないか!」







― ― ― ― ― ―


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これからも精進し、つづきをお届けできるよう努力してまいります。


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