第30話 当たれーっ!

少年はゴーレムの執拗な追跡から逃れながらも、わずかな機会を捉えて携帯式対戦車ミサイルを拾い上げた。


「っ・・・・残念ですがこれも、使用済です」


少年は落胆した声で言った。


通信機から工兵の声が聞こえる。


「落ち込んでる暇はない、すぐに次の場所に移動するよ」


ドローンは急制動でゴーレムの攻撃を躱すが、そのたびに少年は歯を食いしばって耐えている。


少年は落ちている武器を探し出しては拾い上げる。だが、そのほとんどは壊れていたり使用済みだった。


「こ、これはどうですか?」


少年は期待を込めて、RPG-16(携行用対戦車ロケット擲弾発射器)をドローンのカメラに見せる。


「ああ、これは大丈夫だ、損傷もない! 構造が単純なぶん丈夫で使い方も簡単だ。君でも十分使えるよ」


工兵は安心させるような声で言った。


「見てください! 砲弾が入ってるバックパックもありました」


少年は嬉しそうに報告する。


「よしっ、よく見つけたな。じゃぁ次は落ち着いて砲弾を装填するんだ」


工兵はゴーレムから逃げ回りながらも軌道を安定させようとしている。

しかしゴーレムが通った跡は深く地面が削られ、平坦な部分が失われていた。

状況は時間が経つほどに悪くなってゆく。


少年はドローンに引きずられながら苦労して砲弾を装填した。


「いいかい、まずは足を狙うんだ。奴の移動速度が落ちれば逃げやすくなるし、攻撃ももっと当てやすくなる」


工兵は作戦を伝え、さらに使用時の注意を加える。


「それに撃つときにはバックブラストに注意するように。背後に結界の壁や地面がある場合は爆風に巻き込まれる。充分なスペースを確保するんだ」


「はい……」と少年は小さく返事した。


「攻撃のタイミングは限られる。我々が直線的に逃げているときか、奴が結界の壁にぶつかって足を止めたときだ。だが緊張する必要はない、最初の一発なんだから練習のつもりでやってみればいいよ」


工兵は少年を励ました。


「はいっ」


少年は力を込めて返事をする。


「練習の……、練習のつもりで……」


少年は自分に言い聞かせるように呟く。


「よしっ」


少年は決意の声を発して狙いをつけた。



「いけぇーーーっ!!!」



少年は叫んで引き金を引いた。



砲弾はゴーレムの足に命中する。

ゴーレムは足の一本を失ってバランスを崩す、だが転倒するまでには至らなかった。


「あ、あたった……当たりましたよっ!工兵さん!!!」


少年は喜びの声で叫んだが、その向こうでゴーレムの行動が変化する。

それまでは直線的に追いかけてくるだけだったが、少年の逃げる方向を予想して先回りをするような動きを見せた。



通信機の向こうから工兵の驚く声がする。


「なっ! まさか……」


工兵はゴーレムの動きを観察するようにドローンの操作をしている。


「そんな……まさか、今まで手加減をして……、遊んでいたのか……!?」


少年も事態の変化を察知したらしく、次弾の装填をしようとしたが砲弾をいくつか落としてしまう。


「お、落ち着くんだ少年」


工兵は少年に声を掛ける。しかし、その本人が動揺を隠しきれていなかった。


さきほど少年が砲弾を装填しようとしたとき、ゴーレムは瓦礫を蹴り飛ばしてきた。そのために工兵は急激な進路変更をせざるを得なかったのだ。



「あの動き……こちらが何をしようとしているのか理解した上で、邪魔してきたのか……?」


工兵はドローンを蛇行させて、ゴーレムに行動を読まれないように操縦する。しかし、ゴーレムはその蛇行も見抜いて追いつめてくる。

少年はドローンに振り回されながらも、なんとか次弾を装填しようと悪戦苦闘していた。



工兵は少年の準備が終わるのを待たずに声を張り上げる。




「少年! とにかく撃てるときに撃ってくれ!!!」




もはや安定した発射体勢などは期待できなかった。

少年は不安定な姿勢で強引に砲撃するが、やはり狙いは外れてしまう。


「もう足は狙わなくていい、どこでもいいから当たりそうな場所を狙うんだ」


工兵は焦り気味にアドバイスをする。

その焦りにつられそうになりながらも少年は可能な限り慎重に狙いをつけて再度砲撃した。が、またしても外してしまう。



「!っ、このままじゃダメです。…………そうだ、こっちもアイツの行動を誘導出来ないですか? 例えば、わざと進路を固定したりとか」


「それは……」


工兵は即答せずに、少し間をおいてその行為の意味を端的に指摘する。


「かなりの……危険を伴うよ」



「わかってます。でも、とにかく攻撃を当てないと……」


少年は同意の返事をしつつも説得を試みようとしている。

その態度からは自らの危険よりも、少年の為にドローンを必死に操縦し続けている工兵を気遣っているような雰囲気が感じられた。


「……くやしいが、仕方ない。やってみよう。

タイミングはこちらで指示する。でも、ゆっくりと狙いをつける時間はないよ。奴が誘いに乗ったらすぐに撃ってくれ」


対する工兵の声は落ち着いているが、以前ほどの余裕は失われているようだった。


「発射までに時間を掛けて失敗した場合は、逃げることも出来なくなるってことですね。了解です」


少年はそれが大したことがないかの如く答える。


カメラは追いかけてくるゴーレムの姿を映した。工兵はなるべく違和感のないように誘導のタイミングを計る。数度蛇行したのち、進路選択を失敗したかのように一方向に向かって進んだ。そして


「今だっ!!!」


姿勢が安定した一瞬、少年は限られたごく僅かな時間でしっかりと狙いをつけて偏差砲撃をする。


冒険者たちとの旅で鍛えられた観察眼、男性兵士と女性兵士から受けた射撃の指導、それらの経験は確実に実を結んでいた。



「当たれーーーーーっっっ!!!」








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