第29話 一人じゃない
少年は後方に吹き飛ばされ、ギリギリでゴーレムの攻撃をかわす。
その一撃は地面に大きな穴を開けるほどの破壊力を発揮していた。
彼の背後には4機のドローンが着陸しており、アンカーで機体を固定してワイヤーを巻き上げていた。そのワイヤーは少年につながり、高速で彼を引き寄せている。
ゴーレムの巨腕が少年に向かって伸びてくるが、少年が後方に引き寄せられる速度の方がわずかに上回った。
少年はユニークスキルによって地面から浮遊していた。
わずか1センチの浮遊だが、まるで氷の上を滑るように加速していく。
少年が十分な速度を得たとき、ドローンは機体を固定するアンカーを外して上空に飛び上がった。
ゴーレムの移動速度はその巨体にも関わらず非常に速い。
特に直線的な動きはドローンの飛行スピードを凌駕した。
少年の背後、ゴーレムの速度がさらに増す。
少年を牽引するドローンは、ゴーレムから逃げようと疾走する。
だが神殿を取り囲む空間は狭く、あっという間に結界の壁が眼前にまで迫ってきていた。
ドローンは慌てて急旋回するが、少年の体によって振り回されて速度を失ってしまう。
少年の体は、地面を転がりながら大きな弧を描いた。
ゴーレムは少年を追いかけて転進しようとする。
しかし、岩の巨体は膨大な慣性エネルギーを生み出していた。
あとほんの僅かでゴーレムの巨大な手が少年の体に届くところだったが、自らの勢いを止められずに結界の壁に激しくぶつかった。
轟音とともに結界は震え、上部に積み重なっていた瓦礫が雪崩のように崩れ落ちる。
少年は危うく殺されるところであったが、一時的にゴーレムを引き離すことに成功した。
だがゴーレムは再び少年の追跡を始め、引き離した距離はあっという間に詰められてしまう。少年の後ろ、巨大なゴーレムが間近に迫った。
工兵は4機のドローンを巧みに操る。ドローンの操縦には高度な技術が求められた。
ドローンはゴーレムの攻撃から少年を守るため、懸命に連携飛行を続けている。
少年は何度も何度も地面を転がった。浮遊しているために目立つ擦り傷はないようだが、段差や瓦礫にぶつかるたびにうめき声を上げている。
工兵は時折少年に声をかけるが、気遣いよりも操縦に専念しなければならなかった。
何度目かの突撃、ゴーレムは結界の壁に再び激しくぶつかった。
絶大な速力と膨大な質量。衝撃に結界が揺れ、積み重なっていた瓦礫がさらに崩れ落ちる。
完全に速度を失ったドローンを助けるために、少年は自分の足で走り出す。
ドローンに何度も引きずり回されて、少年は少しずつバランスを保つ方法を学習していた。彼は膝立ちでバランスを取り、不格好ながらも工兵の操縦を助け始めている。
少年はハーネスの下に指を入れて、痛そうにさすりながら言った。
「工兵さん、もう少し……手加減して貰えませんか? 衝撃であばら骨が折れそうです」
少年はかなり疲弊しているようすだ。
工兵はあえて冗談めかして返答する。
「当方としても、お客様のご要望にはお応えしたいのですが、ゴーレムに潰されちゃう可能性がございます。それでもよろしければおっしゃる通りにしますけど、いかがいたしましょうか?」
少年は苦笑しながら答えた。
「痛いのは嫌だけど潰されるのはもっと嫌です。も、もうしばらく我慢します」
工兵は言いにくそうに話を続ける
「ところで少年。外の状況なんだけど、ちょっと問題があるんだ……」
少し和やかになりかけていた空気が不穏なものに変わる。
「結界内への侵入は……無理だった」
少年は驚きと不安で声を震わせた。
「それは……、つまり……救援は来ないってことですか?」
少年は必死に感情を押し殺しながらも、なんとか冷静に受け答えしようとしている。
「実は問題はそれだけじゃないんだ。結界の外にいるゴーレムは既に数回倒した」
「数回?!」
少年は信じられなさそうに聞き返した。
工兵は冷静に事実を告げる。
「ああ、だがそのたびに復活しているんだ。周囲の瓦礫を利用して身体を再構成している」
「っ???!!!」
少年は驚愕のあまり声が出せなかった。
工兵の説明は淡々と続く。
「今、二体同時に倒したが……やはりダメなようだ」
「それって……」
少年は恐怖と驚きで呆然とした。
「次に試すべきことは三体同時に倒すことだな」
「ボ、ボクひとりで結界内のゴーレムを倒せってことですか? しかも外とタイミングを合わせて……」
少年は絶望に叫んだ。
「そ、それは……無理ですよ……」
ついに少年の感情があふれ出す。
「ただ、ただ逃げ回るだけでも……こんなに必死になって。……何度も、なんども死にそうになりながら、……痛くて……辛い思いをしたのに……」
少年の口からここまで必死に隠して、我慢してきた弱音が嗚咽と共に吐き出される。
「残念だけどこのままいつまでも逃げていても助けはこない。少しでも状況をよくするためには、君自身の努力も必用なんだ」
工兵は真剣な声で言った。
「今はとにかく、やれることをやってみようよ。難しいことはそのあとで考えればいい」
ここまで工兵と会話している間も、ゴーレムは少年を殺そうと執拗に追い回していた。
だが少年は完全に心が折れたかのように、ドローンに引きずられるままでいる。
「……」
少年はまだ返答できないでいた、震えながら頭を抱えている。
結界の壁にぶつかって足を止めていたゴーレムが再び動き出した。
「……今までずっと……助けてもらって……守られて」
ゴーレムは標的を再確認するかのように重い足音を立てて少年に向き直った。地響きと共にゴーレムが動き始める。圧倒的な質量が信じがたい加速で、速度を増しながら少年を追いかけてくる。
「逃げたあげくに……諦めて。……何も出来ずに殺される」
轟音と共に瓦礫がまき散らされる。ゴーレムは僅かな時間で少年のすぐ後ろまで迫っていた。ゴーレムの巨大なこぶしが少年をかすめる。
少年はゴーレムの攻撃をかろうじて躱したが、風圧だけで弾き飛ばされてしまう。
「……クショウ…………チクショウ、………………ふざ……けるなっ!」
ゴーレムはさらに追い打ちをかける。ドローンによって少年の進行方向が強引に変えられた。勢いあまってゴーレムのこぶしは地面に突き刺さる。まるで爆弾が落ちたかのような激しい衝撃が空気を揺らす。地面は深々と抉られ、土砂と共に砕かれた石の破片が飛んできて少年の額を切った
「冒険者たち……、兵士さんたち……。ここまで一緒に旅をして、戦い方を教わってきたじゃないか……。ゴーレムなんて……、ちょっとデカいだけの…………石くれだっ!」
少年は流れてくる血を腕でぐっと拭う。
「たかが、一匹……。ボク……一人でも………………ぶっっ倒してやるっっー!!!」
少年の瞳に力が宿る。
「その調子だ、少年! でも忘れるな、君は一人じゃない!!
どんな立派な決意や覚悟があっても、それだけじゃ足りない。
僕も出来る限りのサポートをする。一緒にアイツをやっつけよう」
「はい……工兵さん」
少年は工兵の言葉に声を詰まらせる。
「特務部隊が使っていた携行式対戦車ミサイルを見つけた。まずはあれを手に入れよう」
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この作品を読んでくださった皆様に感謝いたします。
初めて手がけた作品であり、至らない点や読みづらい箇所もあるかもしれませんが、皆様のコメントや評価がこれからの執筆活動に大いなる励みとなります。
これからも精進し、つづきをお届けできるよう努力してまいります。
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