第28話 ゴーレム

カメラは上空から神殿の周囲を映している。


「今のは……まさか?」


少年は驚きと恐怖で声を震わせた。


「少年、今すぐ神殿の中に入るんだ」


工兵が無線機越しに叫んでいる。



「ダメだ! 扉が開きません」


少年は必死に扉を押したり引っ張ったりしているが動く気配は全くない。


「なら神殿の裏側に回って身を隠すんだ。何者かが瓦礫の下から這い出そうとしている。おそらくダンジョンボスが生きていたんだ」


工兵の言葉を聞いた少年はすぐさま走り出す。


「や、やっぱり……、ダンジョンボスがっ!!!」


少年は恐怖に顔を歪めて叫んだ。


「今、姿を確認した。結界の内側に一体と、外側にも二体出現してる」


カメラの端にダンジョンボスが瓦礫を押し分けてゆっくりと這い出して来る様子がみえた。少年は信じたくないという風に頭を振っている。


「さ、三体とも生きていたなんて! しかもボス部屋の外にも出現?!」


彼はダンジョンボスに見つからないように身を屈め、神殿の壁にへばりつくようにして走っている。


「三体をたった一人で相手にせずに済んだんだ。状況は最悪だけどまだ希望がある。

君は僕たちが救出に向かうまでとにかく耐えきるんだ」


工兵は少年を励ました。


「たとえ一体だけでも、ボクには……無理ですよ」


少年は泣きそうな声で言った。


「戦わなくていい。とにかく逃げ切るんだ。

ダンジョンボスは神殿を守るような行動をしていた。もしダンジョンボスに見つかっても、神殿を盾にすれば攻撃してこないかもしれない」


ドローンは子機を輩出しながら少年と同じように神殿の陰に隠れた。


カメラの映像に建物越しに赤いシンボルが表示される。前回の作戦で撃ち込まれた、ダンジョンボスのマーカーはまだ作動しているようだ。




「ドッガァアッッーーーーーン」




岩を砕くような激しい音、弾き飛ばされ土礫と瓦礫が雨のように降ってくる。


少年は思わず身をかがめて腕で頭を覆う。



「うあぁっ、ぁああーーーーーーーーーっ」



少年は悲痛な悲鳴を上げる。ドローンのカメラも揺れて画面が乱れる。


「しゃがんでないで立って! もっと右に移動して」


工兵の声が聞こえる。


少年は必死に立ち上がって右に走る。

ダンジョンボスのマーカーは迷うことなくこちらに近づいてきていた。

既に少年の位置がバレていると判断したのかドローンは高度を上げて周囲を確認している。


ドローンのカメラが撮影した映像には、土埃ごしにうっすらとダンジョンボスの姿が見えた。


20メートルほどもある巨大なゴーレム。

ところどころボロボロに崩れているのは前回の作戦によるものだろう。

それでも、その姿には圧倒的な威圧感と迫力があった。


ゴーレムは少年の隠れている場所を正確に把握しているらしく、神殿を回り込むようにして接近してくる。


工兵の予想通り、ゴーレムは神殿から一定の距離を保ったままで、建物に被害をあたえるような攻撃はしてこなかった。




「少年、そっちじゃない逆方向に逃げて」


工兵はゴーレムの位置を確認しながら少年に指示を出している。

ゴーレムと少年は神殿を中心にグルグルと追いかけっこをする形になった。

ゴーレムの移動速度が増すほどに地響きが大きく鳴り響く。




「ゴ、ゴーレムはどっちに行ったんですか? 逃げる方向はこっちで合ってますか?」


周囲の轟音で無線が聞き取り難いらしく、少年は徐々にパニック状態になっている。



「工兵さんっ! ど、どっちに行けばいいの? どうすればいいの?!」



少年は叫ぶように無線に問うが、自らの声でさらに聞き取りづらくなる。


「落ち着いて、今度は左だよ!左!」


工兵はドローンに行先を案内させ、外部スピーカも使いながら少年に指示を出した。



「もっと速く走って、そのままじゃ追いつかれるよ!」



少年は必死に走る。

彼の顔には汗が滲んでいた。息も弾ませているが休むわけにいかない。

這うようにしながらも右に左に駆けずり回っている。



「次は右! じゃなくて少し止まって! 今度は左に行って、ほら早く!」



工兵はダンジョンボスの動きを予測しながら指示をしているらしく、少年の負担を少しでも軽くしようとしていた。


少年の顔は汗と涙と土埃でぐちゃぐちゃになっていた。

時折、変な奇声と悲鳴を上げながらも、指示に従ってがむしゃらに走り続けている。



「ゼェ、ゼェ、ゼェ、……も、もうついて来ないで下さい。お、お願いしま……」



ゴーレムの巨大な手が少年に伸びる、間一髪で壁の角に隠れる


「ヒアッゥ!!! こ、こっちにこないでっ!!」


巨大な足に床面が大きく抉られて、蹴り飛ばされた床石が少年の顔をかすめる



「ギャッアぅッッッ!!!」



「そこで止まって少し休んで、……次は左! ダッシュして!」



少年は走ろうとするが足がもつれて転んでしまう。


もう何度目の転倒か分からない、四つん這いになりながらも必死に前に進もうとしている。



「も、もう……ダメです」



少年は情けない声をあげた。


命がけの追いかけっこはまだ5分ほどしか経っていない。

だが、早くも結末を迎えたようだ。


少年はあきらめずに逃げようとしているが、彼の身体は既に限界に達していた。



「仕方ない、作戦を変更しよう! ぶっつけ本番だけどアレをやるしかない。すぐに準備して」


工兵は少年に指示を出してドローンを接近させる。



「ハァ、ハァ、ハァ。……ハ……ィ…..」



少年は息も絶え絶えに返事をした。





ダンジョンボスが迫ってくる。



少年は諦めてしまったかのようにその場を動かなかった。



ゴーレムの巨大な足が少年を踏みつぶそうとする。



そして……。




「うげッぇぇぅえっ」




苦痛に満ちた叫び声と共に少年の体が後方に吹っ飛んだ。









― ― ― ― ― ―


この作品を読んでくださった皆様に感謝いたします。

初めて手がけた作品であり、至らない点や読みづらい箇所もあるかもしれませんが、皆様のコメントや評価がこれからの執筆活動に大いなる励みとなります。

これからも精進し、つづきをお届けできるよう努力してまいります。


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