第27話 神殿

空中をゆっくりと降下してゆく瓦礫に、カメラはピントを合わせて拡大する。


5メートル程もある巨大な瓦礫の上には、しがみつく少年とワイヤーに引っ張られて共に落ちてゆくドローンの姿があった。少年はユニークスキルを使って落下速度を必死に緩めようとしている。


少年がドローンに向かって叫ぶ。


「工兵さん聞こえてますか? このままだと神殿の真上に落ちてしまいます。

ドローンで少しでもいいから瓦礫を横方向に移動させて下さい。

お願いします! ドローンで瓦礫を、横方向にっ!!!」


少年の声は絶望的だった。

瓦礫は少年のスキルによってゆっくりと降下している。

しかし、瓦礫がその大きさに見合う質量でもって神殿を押しつぶしてしまうのは、もはや時間の問題だった。真下には神殿の屋根がどんどん近づいてきている。



中継しているドローンのカメラの映像には工兵と少年の無線通信も録音されていた。


「聞こえてるし見えてる。今ドローンを操作してるよ。LAWS-1及び2号(自律型致死兵器システム)とFFRS-3及び4号(無人偵察機システム)の四機で三時方向に全力で牽引してる」


少年は瓦礫と神殿の位置を確認しながら叫ぶ。


「ダ、ダメです! 全然足りてないっ。もっと、もっと引っ張ってください!!」


工兵は落ち着いた声で答える。


「ダメって言われてもこれが全力なんだよ! 君のユニークスキルで何とか出来ないか?」


少年は泣きそうな声で答えた。


「なんとかっていわれてもボクのユニークスキルじゃ……」


少年の言葉は途中でと切れる。既に神殿の屋根は間近に迫っていた。


「ぅあああぁぁアアアー、ぶつかるぅうーーーーっ!!」


瓦礫が屋根に衝突する。


「ゴガガガァァァーーンン」


瓦礫は屋根の端部を破壊するが神殿を押しつぶすことはなく、大きく傾きながら屋根の上を滑り落ちて行った。



「ズズーン」


凄まじい音と土煙がカメラに映った。


「少年! 少年! 大丈夫ですか? 応答してください」


工兵は心配そうに呼びかける。

しかし、落下した瓦礫の周辺は土煙で何も見えない。



「な、なんとか……」


雑音まじりの通信に少年のかすれた声が聞こえる。


しばらくして、少年の姿が見えてきた。

彼は無事のようだが、腰が抜けているようでうまく立てないでいる。


「ハァ、ハァ……。し、死ぬかと……思いました」


少年はひどく震えた声でつぶやく。


「そ、それにしても……、な、何で……こんなことに……?」


少年は立ち直ろうとしているが、彼の動揺は未だに収まっていないように見えた。

少年を落ち着かせるためなのか、工兵は少し間延びした声で答える。


「ふ~む、瓦礫が結界をすり抜けた件かい? 

おそらく、君のユニークスキルは単に重力に影響を与えるものではなくて、結界の斥力のような力場にも影響を与えるものだったんじゃないかな?

そもそも一般相対性理論によれば、時空の歪みを重力とみなすことも出来るし、現象を見ただけじゃ理屈はよくわかんないよね」


「な、なるほど……。なんだか……よく……わからないってことが、少し……わかりました」


少年の声は徐々に落ち着きを取り戻していく。


「ところで……。さっき、聞こえてるし、見えてるって言ってましたけど?」


工兵は苦笑いしながら説明した。


「閉じかけの結界にドローンが挟まっちゃってて、丁度良い感じに映像も中継出来てるんだよ」


「それは……。現場を見たらちょっと笑えるかも」


少年に笑顔が戻り、少し楽し気な声を出す。


工兵も少年に合わせて明るく答えた。


「でもそのおかげでサポートの幅が広がった。君はラッキーだよ。後で挟まってるドローン見においで。ついでに褒美の言葉でもくれてやってよ」


「はい、是非とも」


少し間をおいて少年が尋ねる。


「あの……外の様子はどうなってますか? 落ちる前、かなり騒がしかった気がしたんですけど。まわりを気にしてる余裕がなかったから……、怪我人とか出てないですか?」


少年の声は軽い調子だったが、不安と心配が混じっていた。

工兵は一瞬言葉に詰まるが、すぐに普段と同じように返事をかえす。


「……今は、外のことは気にしなくていいよ。それよりも、中の状況はどうなってる?」



「えっと神殿は無事です。結界の大きさは半径200メートルくらいかな? 

パッと見た感じですが、ダンジョンボスは見当たらないです」


少年は神殿の周囲を歩きながら答える。



「ふむふむ、ボス部屋の範囲が以前よりも狭くなってるんだね……。

現在、外部から結界の中には誰も入れないんだ。つまり君は今、一人でボス部屋に入ったのと同じ状態で、閉じ込められている。

だがおそらく、神殿の内部にはポータルのようなものがあってダンジョンの外に脱出できるはずだ。

だから、まずは神殿の中に入れそうな入口を探してもらえるかい?」


工兵の指示を聞きながら、少年はドローンに固定された牽引ワイヤーを外してゆく。

ドローンは4機とも無事だったらしく、神殿を中心に四方に飛んでいった。


「はい、分かりました。えっと、扉は見つけましたけど……これ、開くのかな?」


工兵が何かに気づいて慌てる。


「少年! ちょっと待って……」


少年が扉に触れた瞬間、耳には聞こえない高周波のようなものが神殿を中心に広がり、空気が震えた。

ドローンのカメラも激しく揺れ、ノイズが走って画像が乱れる。

結界の端、うずたかく積もった瓦礫の山が爆発するように飛び散った。


さらに遠く、結界の外からも同じような音が二つ聞こえてきた。









― ― ― ― ― ―


この作品を読んでくださった皆様に感謝いたします。

初めて手がけた作品であり、至らない点や読みづらい箇所もあるかもしれませんが、皆様のコメントや評価がこれからの執筆活動に大いなる励みとなります。

これからも精進し、つづきをお届けできるよう努力してまいります。


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