第25話 迷い
カメラは三人の姿を捉えていた。
「少しは疲れが取れたかい? 坊や」
女性兵士はやさしく声をかけてきた。
「正直もう少しゆっくり休みたいですけど、そうも言っていられないですし」
少年は顔を上げて微笑んだ。
彼らの隣には男性兵士が不機嫌そうに立っていた。
「まったく気に入らねぇな、テロリストどもが生きていたと思ったら、またガキを連れ回す気かよ。クソッ、気に入らねぇ」
男性兵士が不満を漏らす。
「連れ回される訳ではないですよ、また瓦礫の撤去をするだけです。それが終わればボクの出番はお終いなので、後ちょっとくらいは頑張れますよ。それに彼らは……」
少年が話をつづけようとするが、男性兵士は彼の言葉を遮る。
「ああ、ダンジョンボスと戦った一般兵から話は聞いたよ。
特務部隊のやつらテロリストごと一般兵を殺そうとしたらしいな。それをよりにもよってテロリスト共に助けてもらったってな。まったく気に入らねぇーぜ!!」
女性兵士がさらに大きい声で怒鳴った。
「デカい声だすんじゃないよ、あんた! 坊やに当たってどうするんだい」
バシッという音が響き渡る、女性兵士は男性兵士の頭を叩いていた。
女性兵士の隣で男性兵士は悶絶しているが、何くわぬ様子で彼女は話題を変える。
「それで、博士と女の子の様子はどうだったんだい?」
「ヘレナさんはまだ意識は戻ってないみたいですけど、容体は安定しているらしいです。少なくとも今すぐに命にかかわるような状態ではないと聞きました」
少年が答えた。
「……その言い方だと、直接会ってないのかい?」
女性兵士が尋ねた。
「はい……なんか……、今の中途半端な気持ちで彼女たちに関わることに抵抗があるというか、会いづらいというか……」
少年が言葉に詰まった。
「なんだそりゃ?」
男性兵士が不思議そうに言った。
「あの少女の面倒みるなら覚悟を決めろって、ある人に言われて……」
少年は小さくつぶやいた。
女性兵士は首を傾げる。
「よく分からないけど大袈裟に考えすぎじゃないかい?」
少年は困ったように答える。
「いえ、それがそうでもなくて……。
あなた方、ダンジョン治安総局(DSH)がこんな大部隊でここまで来ることになった原因……。その少女を誘拐した博士。
その彼女が意識を失う前に言ったんです。少女のことを頼むって」
男性兵士は舌打ちした。
「そりゃ、ガキには荷が重い話だな。普通に考えれば二度と関わらないのが正解だろ。結論は出てるじゃねぇか。それに、そん時はもしかしたら博士が死んじまうかもって話だったんだろ? 助かりそうならもういいじゃねぇか。クソガキが出しゃばる必要なんてねぇだろ」
男性兵士が言った。
「……はい」と少年が小さく頷いた。
「でも、坊やは迷ってる」
女性兵士が言った。
「…………はい」と少年がまた頷いた。
「じゃー、もう少し迷ったままでいな」
女性兵士は言った。
少年は不思議そうに女性兵士の顔を見上げる。
女性兵士は無言で頷く。
「はい……」
少年は少しだけ元気を取り戻した様子で女性兵士に返事を返した。
「あのっ……、でも皆さんは大丈夫なんですか? 特務部隊の人達は一般兵を殺そうとしたんですよね。無事にダンジョン出られたとしてもこれまで通りにダンジョン治安総局(DSH)で働けるんですか?
えっと、酷い話だけど……副指令と指揮所、特務部隊の人達がみんな死んでしまってるなら、もう問題はないのかな?」
少年が心配そうに言った。
女性兵士は苦笑する。
「まったく、坊やは……どうやら他人の心配が好きな性分なんだね。今は他にやらないといけないことがあるんだから、余計なことを考えるのはやめときな」
女性兵士が言った。
男性兵士は鼻を鳴らして言った。
「そうだ、クソガキは自分のことだけ心配してろ。しかし指揮所が全滅は間違いないだろうが、特務部隊が全滅は想像できないな」
「そんなにスゴイ人達なんですか?」
少年は驚いて聞いた。
「ああ。俺が見たところ、あの女テロリストと同格もいたと思うぞ。あっさり死んだとは思えねぇんだがなぁ」
男性兵士は目を細めながら言った。
「あ、あの人と……同格っっ!!」
少年の声は驚きに揺れ、避難所に響いた。
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