第23話 工兵

カメラは空から地上を見下ろしている。哨戒任務中のドローンが撮影した映像のようだ。

新設された避難所は高台に位置し、土嚢が積まれ、中央には新しい救護所が配置されていた。テントには屋根すらなく見た目はみすぼらしいが、以前の場所よりも防御が容易な構造となっていることが伺える。


少年と二人の兵士が水と食料の分配を始めている。彼らの無事を祝い感謝の言葉を伝える者や気まずそうにしている者、図々しく自分の取り分を主張する者たちの様子をカメラは捉えていた。


「後のことはやっておくから少年は休んでいろ」と兵士の一人が声をかける。


「はい、ありがとうございます」


少年は返事をする。彼は人気の少ないところに辿り着くと装備を外してへたり込む。彼の顔には疲労と心労が深く刻まれていた。


しばらくすると松葉杖の若い工兵が少年に近づいてゆく。


「こんなところにいたんですか? 探しましたよ」


工兵が笑顔で声をかける。


「ごめんなさい。なんか、安心したら疲れがどっと出ちゃって」


少年が申し訳なさそうに言う。


「とにかく無事に帰ってきてくれて本当に良かった。

少年に同行した兵士がたったの二人しかいなかったと聞いて、とても心配したんですよ。本当は僕が一緒に行きたかったんですけど。…………この足ではね」


工兵は自嘲気味に笑って足を見せる。彼の右足には添え木と包帯が巻かれていた。


「いえ、とんでもないです。あなたの貸してくれたドローンのおかげで、何度も命拾いしました。本当にありがとうございます」


少年は立ち上がって深々と礼をしながら感謝の言葉を述べる。


「いやいや、僕のドローンじゃないし、勝手に持ち出しただけだから……。瓦礫の下から僕や他の兵士たちを助け出してくれたお礼なので気にしないでよ。それに、今度は水を持ち帰ってきてくれた分のお返しもしなくちゃね」


そう言って彼は背負っていた荷物の中身を見せる。それはウィンチなどの機械類だった。


「待っている間にまだ使えそうな部品を集めて修理したんだ。僕が今ここでやれることはこのくらいしかないからね。それに、君なら色々な使い方ができるでしょ?」


袋から中身を取り出しつつ、工兵は説明する。


「こっちの奴は500キロ、この小型のは100キロぐらいまで巻き上げが出来てハープーンガンにも取り付けられるよ。釣り用の電動リールを参考にして作ってみたんだ」


「ん……、釣り?」


少年はつぶやいて少しの間考え込むが、ふと何かに気づいたように顔を上げる。


「あ、あのっ、釣りって魚が思いっきり暴れても針が外れない様に、引っ張る力を自動的に調整する機能がありますよね? 同じような機構をこれにも付けれますか?」


少年は期待を込めて声高に聞いた。


「それは、ドラグ力のことかな? 大丈夫、結構簡単な仕組みだからこれにも直ぐに追加できるよ」と工兵が答える。


「それから、他にも改造してほしいことがあるんですが……」


少年は自分のアイデアを工兵に話し始めた。


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