第20話 ドローン
カメラは廃墟と化した街のような遺跡の一角を捉えていた。
そこには三人の姿があり、そのうち一人は女性兵士に背負われている少年だった。
彼はまだ青白い顔をしていたが、強がって言った。
「あの、さすがにもうだいぶん回復したので、そろそろ下りますよ」
彼女は優しく言った。
「坊や、子供が強がるんじゃないよ」
男性兵士は少年と女性兵士の近くを歩いていた。彼は不機嫌そうな目で彼女たちを見ている。
「いいや、クソガキ。今すぐ下りろ」
彼は少年を固定するベルトを外してしまった。
女性兵士は男性兵士に恐ろしい顔つきで怒鳴る。
「何するんだテメェー、勝手なことしてんじゃねぇよ」
女性兵士は男性兵士の顔面にパンチを繰り出した。男性兵士は後ろにひっくり返って地面に倒れる。
「うぐぅ! 暴れるんじゃねぇよ、ガキが怪我するぞ」
少年はバランスを崩して女性兵士の背中から飛び降りる。
男性兵士はニヤリと笑った。
「じゃあ今度は俺の番だな。俺をそいつに乗せてくれ」
男性兵士は言いながら女性兵士の背中によじ登ろうとした。女性兵士は彼を振り払おうとする。
「ふざけんな! 何でテメェみたいなオッサンをあたしが背負わないといけないんだよ?」
男性兵士は強弁した。
「だから順番だって言ってるだろ。そのガキにだけ優しくするなんてズルイだろ! 俺にも優しくしてくれ」
女性兵士は男性兵士に呆れる。
「子供に嫉妬してんじゃねぇよ、キモチ悪ぃ!」
男性兵士が背中にしがみついてくるので女性兵士はキャリーフレーム(背負子)を外してしまった。
「これでどうだ!」
女性兵士は、キャリーフレームを男性兵士に投げつけた。だが、男性兵士は素早くそれを受け止めて、自身に装着する
男性兵士は得意気に笑うと、少年に向かって手招きした。
「よし、クソガキ! 今度は俺様の番だ。背負われろ」
少年は男性兵士に呆然とする。
「えっ?」
男性兵士は自信満々に言った。
「俺様の力強さをみせてやる!」
少年は困惑した表情を見せる。
女性兵士は呆れる。
「そのバカに背負われてやれ、坊や」
ドローンのカメラは男性兵士の顔をアップで捉えた。彼は嬉しそうに言った。
「さぁ、出発だ!」
「クソガキ、知ってるか? このオバサンと俺様は昔から張り合ってきた。戦場はもちろん、些細なことでもだ。いつだって、このオバサンは俺様に対して素直じゃないんだよ。キャリーフレームを渡せと言ってもおそらく逆にキレる。だから、俺様はこうやってくだらない芝居をして強引に奪ってやったのさ」
男性兵士はニヤリと笑いながら言った。
「俺様のほうがスゲェってことを、クソガキとこのオバサンに分からせてやるためにな!」
女性兵士は男性兵士に怒鳴った。
「誰がオバサンだテメェー! あんたみたいなくだらねぇオッサンとあたしが張り合ってる訳ねぇだろ! つまらない嘘を坊やに吹き込むのは止めな! 俺様俺様って言ってるだけのアンポンタンがっ!」
少年は男性兵士と女性兵士のやり取りに苦笑した。
「ふふっ、お二人とも仲がいいんですね」
「「!!!っ」」
◆◇◆◇◆
ドローンのカメラは彼らが歩く様子を静かに追っていたが、突然警戒音を発した。
「バンディット・イン・アンブッシュ、ベアリング・330、レンジ・450ヤード、ラージサイズ8、ミドルサイズ12、スモールサイズ22」
「なんだと!?」
男性兵士が驚いて言った。
「くそっ、ルート上にモンスターの待ち伏せかよ!」
女性兵士は眉をひそめる。
「どうする? ここで引き返した場合、別のルートはあるのかい?」
女性兵士は少年に聞いた。
「よし、やっちまおうぜ! モンスターなんて目じゃないぜ!」
男性兵士が叫ぶ。
「突撃ーーー!」
男性兵士がモンスターが待ち構えているであろう方向に走っていこうとする。
「待て! もっと慎重に動けバカ! テメェが一人で突っ込んでも勝てる訳ねぇーだろ」
彼女は男性兵士の腕を掴んで引き戻した。
「それに、坊やを背負ったまま戦おうとするんじゃないよ!」
「でも、俺様の活躍できるチャンスが……」
男性兵士が言った。
「バカじゃないのか!? 坊やを危険にさらすな!」
女性兵士が怒鳴りつける。
「え? でも……」
男性兵士が言った。
「でもじゃない! 戦うなら一人でいって死んで来い!」
「死なねぇよ! 俺様は強いんだ!」
「強くないだろ! ゴミカス野郎!」
女性兵士が男の頭をぶん殴る。
彼らは口論を続けていたが、少年はドローンから送られてくる情報を見て顔を青ざめさせていた。
ドローンからの報告
「バンディット・イン・サラウンド、ベアリング・オール・アラウンド」
「あ、あのっ。モンスターが……ほ、包囲されてるんですが……」
「バンディット・イン・サイト、ラージサイズ25、ミドルサイズ32、スモールサイズ48」
「!!!っ、さすがに俺様でもやばい、かな? ……ちょっと多すぎるだろ」
男性兵士はそう言って息を呑んだ。
「あんたがグダグダやってるからだよ、今なら止めないよ。ほら、どうにかしな!」
女性兵士は男性兵士の肩を押す。
「無茶いうな。回避ルートはねぇのか!?」
男性兵士が少年に訪ねる。
「い、今ドローンが分析中です……」
少年が答えた。
モニターはドローンの分析映像を映している。ダンジョンの地図が表示され回避ルートを検索している。しかし、どこもモンスターを示す赤い点で埋まっていた。
「み、見つかりません……」
少年が言った。
「くそっ!!!」
男性兵士が言った。
「こんなところで……もう、終わりなのかい」
女性兵士が言った。
「……」
少年は何も言わなかった。
兵士たちは近づいてくるモンスターに向けてアサルトライフルで応戦している。二人とも口先だけではなく手練れのようだった。
連続する銃撃がモンスターの数を減らしていく。
しかし、彼らはモンスターに追い詰められていた。
既に逃げ場はない。
画面は突然白く染まる。
「エンゲージ・オフェンシブ、フォックス・アウェイ」
激しい爆発音。
「ガンズ・オン・ターゲット、ファイア」
アサルトライフルとは違う重く激しい銃撃音。
「「えっ!?」」
男性兵士と女性兵士がともに驚きの声を上げる。
「脱出ルート送られてきました!」
少年が言った。
「ブレイク・アウト!ベアリング・240」
ドローンが報告する。
「あっちです。はやく!」
「行くぞ!」
女性兵士はそう言って銃を構えた。
「おう!」
男性兵士もそう言って走り出す。
「サポート・イズ・オン・ザ・ウェイ。ホールド・オン」
兵士たちはドローンの援護を受けながら、脱出ルートに向かって走っている。 少年は男性兵士の背中からドローンを見上げている。 少年は驚きと安堵で涙を流していた。
彼らは無事に包囲網を脱出できたらしい、画面には彼らの笑顔や抱擁が映っている。
直後、男性兵士は女性兵士に殴られて地面に転がっていた。
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