第19話 兵士たち
ドローンのカメラは少年の姿を捉えた。
「あなたが……ついて来てくれるんですか?」
少年は男性兵士に尋ねたが、その声はかすかに震えている。
男性兵士は銃を構えており、不機嫌そうに少年を睨んでいた。
「テロリストと一緒にいたガキなんざ信用できねぇ。だから俺はお前を見張るためについて行く。何を企んでるのか知らねぇが、俺様がお前の計画をぶっ潰してやる」
男性兵士は筋肉質で目つきが悪い。彼は少年を敵視しているようで、常に威嚇している。
少年は「そう……ですか」と小さく返したが、目を伏せてそれ以上何も言わなかった。
「しかし、あいつら情けねぇな。口先ばかり達者で、実際にガキのお供をするのは俺だけかよ」
男性兵士はそう言って鼻で笑った。
「あら、あたしも行くわよ」
女性兵士が声をかけてきた。
彼女は若く美しいが、妙な迫力と威圧感があった。
「ゲぇっ、お前かよ」
男性兵士は驚いて顔をしかめた。
「ゲッ、は無いでしょ。こんな見目麗しい乙女に向かって」
女性兵士はそう言って自分の胸や腰を強調したが、その仕草はあまり魅力的ではなかった。
「どこが乙女だ……」
男性兵士は小声でつぶやいたが、女性兵士に聞こえてしまったらしい。
「あぁアーーー?」
女性兵士は怒って男性兵士の頭を叩いた。その音はカメラにもハッキリと拾われていた。
「い、いえ、何でもありません……」
男性兵士は慌てて謝ったが、女性兵士は許してくれなかった。彼女は男性兵士の耳を引っ張っている。
少年は衛生兵に向かって話す。
「衛生兵さん、ヘレナさんと少女のことを頼みます」
彼女は少年の手足の傷を手当てしながら心配そうに尋ねた
「はい。……本当に体調は大丈夫なんですか?」
彼女は優しく少年に声をかけたが、その表情は不安と申し訳なさを感じさせた。
少年は「大丈夫ですよ」と答えたが、顔色は明らかに悪かった。
「その子に無理はさせないよ。あたしがキャリーフレーム(背負子)に載せて運んでやる」
女性兵士はキャリーフレームを指さしながら言った。 彼女はそう言って笑顔を見せたが、その笑顔は強がりであることがわかった。彼女もまた塔の崩落で負傷している。
彼らは別れの挨拶を済ませて歩き始めた。兵士が2人と少年が1人。
男性兵士は少年に指示を出す。
「ドローンに命令して索敵させろ」
ドローンは高度を上げる、ダンジョン内は完全な暗闇に包まれていた。
ドローンの映像は暗視カメラに切り替わる。さらに赤外線モードに切り替わり、CG処理されたワイヤーフレームモードに切り替わる。索敵と同時に地形の解析をしているようだ。
ダンジョンの中は石造の建造物が迷路のごとく広がっていた。
古代文明の遺産のようにみえるが、細部は人が住めるような造りにはなっておらず、モンスターの巣窟になっていた。
地形データが少年のコントロールパネルに送信される。画面には候補となるルートが複数表示され、少年の指示によって一つのルートに絞られた。
「こちらのようです」
少年の言葉に従い男性兵士が先頭に立って進んだ。少年を背負った女性兵士は彼の後ろに続く。
「あの、重くないですか? ボク、やっぱり自分で歩きます」
少年はそう言ってキャリーフレームから降りようとした。
「却下だね。今のうちに休んでおきな、坊や。今後の状況によってはぶっ倒れるまで全速力で走ってもらうからね。今から楽しみにしてな」
彼女はそう言ってニヤリと笑ったが、その笑顔は冗談を言っているようには聞こえなかった。
男性兵士は彼女の笑顔を見て少し引いている。
ドローンは300メートル先にモンスターを発見する。
兵士たちにも無線通信に機械音声による報告が届く。
「バンデッド・イン・レンジ! エンゲージ・ディフェンシブ! ロケーション、グリッド0-3-5-7-9、ミドルサイズ3」
少年はドローンに命令する
「了解、やっつけて」
消音モードで発射された銃弾が、あっという間にモンスターを討伐する。
ドローンは軍用らしく、ヘレナの持っていたドローンよりも高度なAIと武器が搭載されているようだった。
「はぁ~? なんだこれスゲェな。こんなドローンどこで盗んできたんだ、クソガキ」
「え、えっと、工兵の人が貸してくれたんです。要人警護用の特別製だけど、その要人がもういないからって……」
その後も、ドローンはルート上の危険なモンスターを誰よりも早く発見して迅速に排除してゆく。
「おいおい、ドローンが全部やっちまってるじゃねぇか!
俺は何の役にも立ってねぇじゃねぇかよっ。クソッ、ふざけんなドローン、俺にも仕事をくれよ!」
彼はそう言ってドローンに向かって叫んだが、ドローンは何も答えない。
「うるさい黙れ、モンスターが寄ってくるだろうがっ!」
女性兵士はそう言って男性兵士を叱ったが、その声は男性兵士よりも大きかった。
「よし、今度は俺が先行する。ドローンなんかに負けてたまるか」
男性兵士はそう言って前に出ようとした。
「止めろバカ! そんなに急ぐな。なんで、ドローンと張り合ってんだよ!」
女性兵士はそう言って男性兵士の腕を引っ張った。
少年は驚いた目で彼らを見ている。
少年はいまだに顔色が悪く、酷くやつれた顔をしている。
だが、彼らのやりとりを見て少し笑顔が戻ったようだった。
彼らの深刻な状況とは対照的に、少年の表情は久しぶりに人の温かさを感じているように見えた。
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