第13話 ボス部屋

カメラには、冒険者たちの姿が映っていた。

少年が機材を操作してモニターに映像を流している。


「ドローンは問題なく動いています。自動操縦も大丈夫みたいです」


少年は報告し、映像の続きを待つ。彼の声は緊張と不安に満ちている。

少年が操作するモニターは空中から見た冒険者たちを映し出していた。

彼らは少年と共にドローンから送られてくる映像をモニターで確認している。


ドローンのカメラから送られてくる映像は、彼らの目をダンジョンの深域まで導いてゆく。



霧深い巨石群の奥深く、ボス部屋の入口にドローンが到着する。

巨大な塔の基部のような岩石の壁が天に向かってそびえ立っていた。


映像は高度を上げ、ボス部屋の入口に巨大な石の扉が開かれているのを映し出す。

その表面には不気味な紋様が彫り込まれ、内側には重苦しい空気と不気味な沈黙が漂っていた。



徐々にスピードを増し、カメラはボス部屋の奥へと進入していく。


モニターに広大な空間が映し出される。

それは部屋の中とは思えぬほど広く、闇に満ちた虚空が広がっていた。

暗く陰鬱な空気が漂い、微かな光がどこからか差し込んでいる。


広大な空間の中央には、そびえ立つ巨大な石柱が道をかたち造っていた。



道の先には、遥か彼方に石の神殿が見える。

割れた石板で覆われ、壁には苔が生い茂り、時折不気味な音が響き渡る。


周囲には高さが二十メートル以上もある石像が三体配置されており、それらが発する超越的な存在感は神聖さと禁忌を同時に感じさせた。


石像は人間と蜘蛛を融合させたような姿をしており、四本の腕と六本の足を持っている。それぞれの石像は鎖で縛られているが、その鎖は錆びつき弱っているように見えた。


カメラが近づくにつれて、石像の閉じた目から赤い光りが漏れ始める。

そして鎖は揺れ、石像は鼓動を刻み始めるような不気味に軋む音を奏でた。


異様な光景に、冒険者たちは戦慄を覚える。


ドローンは、動き出した石像を観察するように飛び回る。

その恐るべき蜘蛛型の石像が、ダンジョンボスであることを確かめるためだ。


しかし、石像の横を回り込んで神殿側に近づこうとしたとき、突然何かがカメラめがけて迫ってきた。


通信は途切れ、画面はブラックアウトする。



観客たちは一瞬の闇に包まれた。

重苦しい空気が一同を包む。


「あんたならどうだ?」


朝倉が尋ねる。

女性冒険者のレネ・ハルターは苦笑した。


「私にも無理ね、倒せる武器がないわ。こんな豆鉄砲ではね……」


彼女は自分の持つアサルトライフルを見せる。


「これじゃどれだけ撃ち込んでも無意味ね。彼らをくすぐるくらいしかできないわ」


その口調は悔しそうだが、彼女の表情と態度は大層機嫌が良いように見えた。


「デカすぎる」と柾木が巨体を揺らしながら呟く。


「我が目を疑いたくなりますね。噂程度にこのダンジョンのボスのことは聞き及んでおりましたが……、しかしあれは予想をはるかに超えております」と黒瀬が深く頷く。


女性研究者のヘレナは眉をひそめた。


「異変の影響があったとしても、少々やりすぎですわね」


「さすがにアレはないだろう……。しかも3体だ」


朝倉が呆れたように首を振った。


「あ、あの……、やっぱりゴーレムって硬いんでしょうか? 太平洋戦争時、旧日本軍の構築した鉄筋コンクリート製のトーチカは、40cm砲弾の艦砲射撃に耐えると言われてたらしいですが……」


少年が興味本位で尋ねた言葉に皆は沈黙する。


「あ、あの……、神殿のような建物が見えました。戦わずにあそこまで行ければ……」


少年が慌てて別のアイデアを口にするが、ヘレナが彼の言葉に反応した。


「それも分の悪い賭けですわね。出口があるとは限らない。それが開くとは限らない。

それに、彼らは三体もいる。私たちは数的にも力的にも不利です。神殿へ辿り着くだけでも簡単ではないですよ」


「じゃぁどうする?」と朝倉がチームに問いかける。


黒瀬は肩をすくめた。


「まだ探索していない場所が残っています。悩むのはそれが終わってからでも遅くはありませんよ。もしかしたら、別の可能性があるかもしれません」


黒瀬は楽観的な態度で話終えた。


「そうですね」ヘレナが頷く。


彼らが話している間、モニターは映像を繰り返し再生している。


助手と紹介された少女は後ろから静かに画面を見ている。彼女の淡い青色の目は他の人間には分からない何かを見ているようだった。

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