第5話 ハンドガン

「これからもう一度、あの死体のあった場所に行って武器を回収したいと思います。今のボクは明らかに戦力不足だし、例えハンドガンでもハープーンガンよりはましだと思うので……」


少年の声が聞こえてきた。

カメラはホルダーに納めて身体に固定しているようだ。


しばらくの間ダンジョンを歩く映像が続く。

カメラは少年が進む様子を忠実に記録していた。


ダンジョンの内部は暗く、迷宮のようになっている。壁や床には時折大きなヒビ割れがあり、奥には何かが潜んでいそうだ。


「前よりも酷い臭いがする、吐きそう」


少年がえずく。画面越しにも彼がなるべく息をしない様にしていることが察せられた。

映像は死体が散乱している場所に到着する。


「うっ、これは」


カメラは惨たらしい光景を映し出す。体の一部が失われ、内臓や骨が露出して血と肉片が周囲に飛び散っていた。


「に、人間を食べてる……?」


少年はタオルで口を押さえながらつぶやく。


「モンスターは食料を必要としないらしいって噂を聞いたことがあるけど……」


少年は警戒しつつ死体の周辺を調べている。

離れたところから石を投げては、しばらく様子を見守っている。


「たぶん……死体は四つかな?」


複数ある死体の一つは女性らしい、髪の毛や服の一部が残っている。残りは男性のようだ。


少年は恐る恐る死体に近づいてゆき、鉈の先で軽く叩く。

何も飛び出してこないことを確認すると少年は安堵の息を吐いた。


その後も全ての死体に対して執拗に何度も繰り返したあげく、ようやく遺体のホルダーからハンドガンを抜き取った。


「マガジンポーチがあるのに、肝心の予備マガジンが入っていないね……」


死体の隣には壊れたアサルトライフルもあった。

少年がそれを拾おうとした瞬間、蟲の羽音のような音がした。


「ひっ!!」


少年は非常におびえているようだ。映像はグルグルと回る。


「モ、モンスター?」


少年はゆっくりと後退しているようだが、カメラは左右に大きく振られてピントが定まらない。


「こ、こ、ここまでにして、セーフハウスに戻ることにするよ」


少年が震える声でそう宣言すると、急いで立ち去ろうと走り出した。


激しく揺れるカメラ。ノイズ。少年の叫び声。




ここで突然映像は途切れ、その後こま切れの映像が数回切り替わる。






◆◇◆◇◆






画面には拠点内が映し出された。


そこには青白い顔をしながらも、熱心に銃の分解整備をしている少年がいた。

彼は少し落ち込んでいるようにも見える。なぜかズボンだけが新しいものになっていた。


少年は何かを誤魔化すようにして早口で話し始める。


「か、回収したハンドガンは掃除して使えるようにしました。スイスの銃器メーカーが作った拳銃でSIG SAUER P220、これは自衛隊も使ってた銃です。回収できた弾は24発だけでした。アサルトライフルのほうはたぶんSG 553 R、壊れてたし回収できなかったからよく分からないですけど……」


少年はシールドとハンドガンを身体の前に構える。


「これで少しはまともに戦えるかな」


少年はそう言って、シールドをカメラに見せる。シールドは上半身を覆うほどの大きさだ。


「これはバリスティック・シールドって言うんです。銃弾やナイフ、投石などから身を守るための盾で、元々は対テロ特殊部隊や警察SWATなどが主に使用していました。アラミド繊維や超高分子量ポリエチレンなどの繊維強化プラスチック複合材料で作られてて、弾丸が当たっても貫通しません。この盾があれば、敵の攻撃に怯まなくて済みます。

えっと、さっきは戦うより逃げることを優先してたから……、持って行ってなかったんだよね。決して、忘れてた訳じゃないよ」



少年はカメラから目をそらしながら、さらに説明を続ける。


「こ、これらのバリスティック・シールドは防弾材料のテストプロトコルに基づいて作られていて、レベル3以上のものはライフル弾にも耐えられるんです。もちろん、それだけ重くて大きいから、キャスターやキックスタンドが付いているけどね。

いまボクが持っているのは、レベル3Aでライフルは無理だけど44マグナムなら防げます。その分軽くて扱いやすい、って言っても9キロくらいあるけどね。

前面にはバリスティック・ウィンドウやガンポートが付いていて、敵の動きを見ながら銃撃できるし、夜間用のタクティカルライトシステムも搭載されているから暗闇でも大丈夫」


少年は自慢げに笑う。




やがて、映像は少年が食事をしているシーンに切り替わった。ドライフルーツとナッツをたべているようだ。


「これは美味しくてお手軽、乾燥させても栄養価は落ちないんです。むしろ凝縮されて栄養価が高くなるらしいですよ、ナッツ類は高カロリーだし行動食におすすめですね」


少年は笑顔で言う。少し表情が硬いが先程より良くなったように見える。



彼は立ち上がってカメラをホルダーに戻す。

そして、ひとつ大きく息を吐くと、自らを奮い立たせるようにして言った。


「じゃあ、行こうか」


映像が切り替わる。

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