第4話 セーフハウス

カメラは少年の顔を映している。

たいぶ落ち着いたようだが、未だに少し青白い顔をしていた。

少年は自嘲するような困り顔でカメラに向かって話しかける。


「まずは予備のライトを見つけて、それから他の荷物も全部集めないとですね。その後は安全な拠点も作った方が良さそうですし、いきなり歩き回るとかあまりに無謀でした。動揺していたとはいえ、最初の行動からしてまずかったです。

冒険者養成学校から逃げ出さないといけなかったとしても、ちゃんと準備すべきでした。

一応、このダンジョンは弱いモンスターしかいないという話は聞いていたし、隠れ場所に丁度いいかと思ったのですが……これほど深い穴だったとは予想外でした。どおりでこれまでに一度も踏破されたという話を聞かなかった訳ですね」


拾い集めた荷物を整理しながら少年はつぶやく。


「それにしても、あの地震のような音はなんだったのかな……

あっ、ライトこんなところにあったのか」


少年は中身を確認しながら大小様々なサイズのケースを積み重ねてゆく。


「食料と水はたっぷり持って来たんです。荷物運びだけは得意だからね。

食べ物はほとんどがフリーズドライで、これは大きさも重さも大したことないです。

問題は水で、一人1日に2~3リットル必用だから、いつも沢山運ばされるんです。実はこれもほとんどが配送予定の荷物で……約300リットル、ドラム缶一本と半分ぐらいだったのですが……スミマセン、盗んでしまってゴメンナサイ」


少年はカメラに向かってタンクを見せる。タンクは5リットルずつに分かれており、それぞれに蓋がついている。


「タンクが小分けされてるのは破壊されたり汚染されたりすることがあるからです。このタンクや運搬用コンテナは特別製の貸与品でとても頑丈なんです。

この予備のライトは運搬物資でかなり高性能な高級品です。地上の電気製品はダンジョン内ではほとんど使えないから、ダンジョン専用装備は特別製で値段がすごく高くなります」


少年はライトとコンテナを見せる。それらは金属のような光沢のある材質で、表面に幾何学的な細かい紋様が刻まれていた。




「次は拠点を作ります」


少年はカメラを持ち上げて壁を映す。壁は平面的な形をした巨石でできており、隙間なく組まれている。


「まずはハープーンガンで石壁の上部にフックを飛ばして、ロープで登ります。結構高いですね、20メートル以上あるかも」


少年はカメラを自分に向けてハープーンガンを見せる。それは金属製の筒状の銃で、先端にかえしのついた銛が入っている。


「カメラを置くから、ちょっと待ってくださいね」


少年はカメラを地面に置く。銃を構えて壁を狙い、引き金を引く瞬間が映し出された。


「パシュッ」


銃から銛が飛び出し、壁の上部に引っかかる。ロープが張りつめ、少年は満足げに言う。


「やった!」


少年は子供のような笑顔を浮かべ、ロープを引っ張って確認する。


「大丈夫そうです」


そして、少年は胸のカメラホルダーにカメラを収めた後、ロープにしっかりと掴まって、壁を登り始めた。


「これが結構大変なんですよね」


苦労しながらも順調に登っていく。



「ごめんなさい。ちょっと時間かかっちゃった」


少年は頂上に到達すると息を切らしながら言った。

「でもこれで一番上に来ました」


新しいライトはかなり遠くまで照らせるようだ。不規則な配列の巨石群に囲まれた広い空間が闇の中に浮かび上がる。


カメラに少年の作業風景が映っている。一番高い場所にある巨石に手慣れた様子でロープを掛け、滑車とウインチを取り付けた。彼が手のひらを当てると巨石はわずかに浮かび上がり、滑るようにして横方向へ移動した。そして彼は巨石と共に落下していく。


「こうやってパズルみたいに石を落としてセーフハウスを作るんです。散々荷物運びでやったからね。道具を使いながらちょっと浮かせてやれば、どんなに重いものでも動かせます。質量そのものがなくなったわけではないけどね」


少年は得意げに語る。


「とりあえず持ってきた荷物の置き場と、安全に寝られるスペースがあればいいかな。これだけデカイ石で組んだ家なら、よほどのモンスターでないと崩せないと思うんだ。入口の巨石は僕にしか動かせないしね」


少年はカメラを持ち上げて自分が作ったセーフハウスを映した。岩石で囲まれた四角い空間は隙間なく組まれており、入口は一枚の巨石で塞がれている。


「すごくない?」


少年はカメラに笑顔を見せた。


「疲れたから少し休むよ」


画面はブラックアウトするが、再度画面に少年が映る。


「空気穴忘れてて、もう少しで死ぬところでした」


少年はカメラに向かって苦笑いする。

安心できる場所を得て、少し眠ることが出来たようだ。

そのまま永遠に……とはならなかったようだが。

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