第10話 彼らの強さ
動画は揺れるカメラで再開され、冒険者たちがダンジョンの奥へと進む様子が映された。
彼らは静かに前進しながら、目を光らせて僅かな兆候を探っている。
待ち受ける何かに備え、戦闘の準備を整えていた。
足音が響く暗闇の中、彼らは目線を交わしながら進んでいく。
空気は緊張に満ちていた。
突然、低い咆哮が闇の中に響き渡った。
彼らは足を止め、音の出所を見つめる。
闇の中から異形の生物が複数現れ、凶悪な眼差しを放ち、鋭い牙を剥き出しにして、冒険者たちに襲い掛かってきた。
少年はカメラを握りしめているようだ。恐怖と興奮が入り混じった震える手で、戦闘の様子を必死に撮影しようとしている。
カメラのレンズはモンスターの奇怪な姿を映し出し、薄暗い光の中でキラキラと輝く粘液まみれの皮膚を捉えていた。
冒険者たちは一斉に行動を開始し、素早くかつ連携して動く。
リーダーである黒瀬はハープーンガンを装填し、仲間とモンスターの位置関係を瞬時に観測する。彼の指示はチームメンバー全ての行動と動作を正確かつ計算されたものにした。
その落ち着いた眼差しは猛進してくるモンスターに集中され、刹那のタイミングを逃さない。
黒瀬は冷静にハープーンガンを操り、鋭い矢がモンスターの群れに放たれた。
ハープーンは前面にひしめくモンスターの間をすり抜け、後方の地を這う巨体モンスターの眼球を貫く。
ハープーンにはワイヤーが付けられており、前方のモンスターが足を踏み出すその瞬間を絡めとった。
バランスを崩したモンスターは周りを巻き込んで派手に転倒する。
そこに、勢いの付いたモンスターが次々に突っ込み、さらに被害を拡大させた。
下敷きになったモンスターは押しつぶされて苦悶の声を上げる。
黒瀬はたった数本のハープーンとワイヤーで、群れ全体を足止めしてみせた。
迎撃前衛の朝倉はライフルを構え、モンスターたちに向けて連射を続けている。
カメラは彼の素早い動きを追うのに苦労していた。
ハープーンのワイヤーをかわした、小型の素早いモンスターが朝倉に群がった。
朝倉は優雅にモンスターの攻撃をかわしながら、確実に一体ずつ撃ち落とす。
彼の身のこなしはまるで舞踏のようであり、その命中率は驚異的だ。
カメラは彼の華麗な動きと、銃口から放たれる弾丸の軌跡を映し出した。
各発砲は的確に急所に命中し、モンスターは銃声の連続に耐えきれずに崩れ落ちてゆく。
最後に正木、防御前衛としての役割を果たす冒険者が登場する。
柾木は鉄塊のような長大なパイルバンカーを力強く振るい、迫り来るモンスターを蹴散らしていた。
そのとき、別のモンスターの打撃で地面が衝撃に揺れ動く。
圧倒的なパワーと重量を誇る巨大なモンスターが、ワイヤーを引きちぎって他のモンスターを踏みつぶしながら足止めを抜け出そうとしていた。
柾木のパイルバンカーには特殊なギミックがついていた。
パイルバンカーの射出口をモンスターに接触させると、柾木は複数あるトリガーのひとつを引いた。すると刺す又のような鋭い棘のついた巨大な鋏が、がっしりとモンスターの頭を挟み込む。
柾木は暴れるモンスターをしっかりと抑え込み、次いでパイルバンカーのトリガーを引く。
逃れようのない状態でパイルバンカーを頭部に複数回打ち込まれたモンスターは、彼の容赦ない攻撃に耐えられず、その場に崩れ落ちた。
パイルバンカーの一撃は空気を震わせ、モンスターたちはその凄まじい威力に押し潰されていく。
画面は彼の圧倒的な力強さと、敵を薙ぎ払う姿を映していた。
モンスターの咆哮と銃声が宙に響き渡る。
カメラは左右に振られ、少年の興奮と緊張を伝えた。
映像は時折ぼやけてしまい、少年は激しい戦闘についていくのに苦労している。
冒険者たちのチームワークは見事に発揮され、互いの背を頼りに戦っている。
黒瀬のハープーンが別のモンスターに突き刺さり、近接するモンスターの数をコントロールした。
朝倉が正確な一撃で突出するモンスターを打ち倒し、柾木のパイルバンカーが巨体のモンスターを抑えて確実に始末してゆく。
さらに群がってくるモンスターを蹴散らしながらも、少年の安全と退路は常に確保されていた。
戦闘が終わりモンスターたちが倒れ伏せる中、冒険者たちは一つ息をつくと、凛とした表情で互いに頷き合う。最終的に、冒険者たちはモンスターの大群を打ち破った。
カメラは戦闘の余韻を捉え、床に散らばる倒れたモンスターの無惨な姿を映し出す。
周囲の安全を確認すると冒険者たちは再び集結し、互いに勝利を称えた。
少年が未だに興奮が収まらない様子でカメラに語りかける。
「し、信じられない……彼らの強さは……。こ、こんなにすごい戦いを目の当たりにすることができるなんて、ボ、ボクは……感動しました。ほ、本当に光栄です!!」
状況が落ち着いた後、冒険者たちは少年に注目して怪我がないか確認する。
カメラは彼らの気遣いと少年の感謝の表情を映し出した。
◆◇◆◇◆
冒険者たちは周囲の安全を確認しながら次の行動について話し合っていた。
「さっきのモンスターの群れ。あれ、どう思う?」
朝倉が皆に向かって声をかける。
「奴らは、……気持ちわるい」
言いながら柾木は本当に嫌そうな顔をしている。
黒瀬は顎を撫でながら言った。
「ふむ、確かにあの姿かたちは異様でした。部分的に表裏が裏返ったようになっているモンスターもいましたね。さらにキメラのように複数の個体が融合したように見えるものも観測できました。元の姿は獣系のモンスターのようですが、少し蟲が混ざっているようでしたね。」
朝倉は唇を軽く噛みながら話を引き継ぐ。
「数は少ないが逆もいたぜ。蟲のような外骨格の奴が。アレは硬くて面倒だったなぁ」
黒瀬はうなずく。
「多くの異常個体は通常種よりも強くなっているようでした。今後は既知の弱小種であっても、油断せずにお相手することにしましょう」
「あの、ボクも質問していいですか?」
少年が訪ねる。
黒瀬は少年に微笑みながら答えた。
「何かね、少年。遠慮せずに質問していただいて結構ですよ」
少年は緊張しながら尋ねた。
「あのモンスターですけど……。なんだか、このダンジョンと似ていると思いました。転移してきた他のダンジョンの一部とこのダンジョンが混ざって融合してるのと同じみたいな……」
「確かに少年の言う通りですね。ダンジョン変異の影響がモンスターにも現れていると考えて良いでしょう」
黒瀬は少年の意見に同意して答えるが、少年がまだ何かを言いたそうにしているのを察して続きを促した。
「あの、少し話が変わりますが……。
何度かモンスターの群れと戦ってましたけど、一度も炸裂系の弾を使わなかったのは何故ですか?ボンブランス銃、いまはランスとかジャベリンとか呼ばれている奴ですけど……。
あれだけの群れ、特に巨体のモンスターは近接される前にやっつけた方が安全じゃないかと思って」
黒瀬は少し眉をひそめながら答える。
「ふむ、ボンブランスは種類と弾によって威力がかなり違います。
ですから、仮に軍用の40mmグレネード弾頭で説明しますと、弾着地点から半径5m以内の人員を殺害し、半径15m以内ならば負傷させることが可能な威力を持つとされています。それは、たとえ小さな破片であっても人体を簡単に貫通して重傷を負わせることが出来る威力です。
そんなものをこの狭い場所で使うと、どうなるでしょうか?」
少年は納得した様子で頷いた。
「なるほど、理解しました」
朝倉は言葉をかけながら少年の方を見た。
「勉強熱心はいいことだぞ、少年。しかしモンスターの脅威度を見た目で判断できない以上、少年には安全なところにいてもらうしかないな、しばらくは記録係だ。」
「やはり、実戦の経験はまだ無理ですか?」
少年は少し残念そうに尋ねた。
朝倉は優しく微笑みながら答える。
「観察眼を養えってことだよ。わざわざ動画を撮っているんだから、後で再生して見直したりできるだろ?
モンスターの動きや癖、我々がどこを狙っているのか? そのタイミングは?
学ぶことはたくさんある。頑張れよ、少年」
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