第8話 ダンジョン変異

映像は再開する。

カメラは少年が持つカメラアームに固定されているようだ。

少年は冒険者たちに前後を守られながら歩いてゆく。


「このダンジョンは何層あるんですか?」少年が尋ねる。


チームリーダーの黒瀬は答えた。


「変異が起こる前ならば全十層で、ここは最下層です。しかし、この異常な現象のせいで階層移動が不可能になっています。仮に出来たとしても層数が変化している可能性もありますね」



朝倉は言う。

「それにしても、このダンジョンは蟲だらけだな。他のダンジョンから来たモンスターも見たが、やはり蟲が多い」



大男の柾木がぼやく。

「蟲は嫌いだ。気持ちわるい」



朝倉はからかうように言った。

「そんなに毛嫌いするなよ、蟲も生き物だ。彼らも生きるために必死なんだよ」




「朝倉さんは優しいんですね」少年は少し冷めた声を出した。



「でもモンスターって生き物なんですか?」



少年の質問に黒瀬が答える。

「残念ですが、私にはその質問に答えられる知識がありません。しかし、もしも可愛らしいモンスターがいたとしても優しさは命取りです。彼らは容赦なく襲って来ますので。君も気をつけなさい」



「そうだぞ、少年。カワイ子ちゃんに騙されるなよ。俺たちは君を守ってやれるが、自分でも防衛することを忘れるなよ」



「……」


少年は複雑そうな顔をしながら黙って頷いた。




カメラは前方を捕らえる。 そこにはダンジョンの壁や床が見える。 それらは巨大な岩石でできているが、まるで古代遺跡のように不規則に組み合わされていた。


少年が尋ねる。

「ダンジョンは不思議ですね。どうやって作られたんだろう。どう見ても人工物ですよね?」



黒瀬は答える。

「そうですね。そのように見えるならば、そこには何らかの意味があるのでしょう。フラクタル構造にはスケールの再帰性というものがありますが……。

いや、憶測を語るのは止めておきましょう。

その質問の答えも、誰にも分からないでしょう。ダンジョンの起源や構造は未だに謎です。今、我々にできるのはただ探索することです」



朝倉は大袈裟な身振りを交えながら言った。

「そうだな。ダンジョンは俺たち冒険者の夢と悪夢で出来ている。宝や秘密や危険や死。だから俺たちはダンジョンに魅かれるんだ」




「……」


少年は複雑そうな顔をしながら黙って笑った。


冒険者たちは歩きながら雑談を続けている。

少年は会話には参加せずに、ただじっと彼らのやり取りを見ていた。


彼らは個性的で魅力にあふれ、彼らは経験豊富で強靭さを持ち、彼らには仲間意識と確かな絆があった。


「……」


少年は少し寂しそうな顔をしながら、静かに冒険者たちの様子を眺めていた。




カメラは左に移る。 そこには開けた場所が見えた。


「あれが別のダンジョンの一部ですか?」


少年の問いに朝倉が答えた。

「そうだ。我々が入った時にはなかったが、今は沼地になっている」



少年が不安げに尋ねる。

「あの……、あそこを通るんですか?」



黒瀬は当たり前のことのように淡々と答えた。

「行くしかないでしょうね。他のルートは全て探索が終わりました。出口はあの先にあると考えるのが自然です」



朝倉が言った。

「まあ、まだ発見されてない秘宝にも興味はあるが、外に出られなければ意味がないからな」




「出口を探す」柾木は肩に武器を担ぎながら答える。




「……」少年は黙って頷いた。

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