プロローグ2

カメラの映像はノイズと共に始まる。


「やあ、みんな! 俺のチャンネル『ダンジョン・デストロイヤー』へようこそ! 今回は信じられないことが起こったんだ。なんと、俺が新しいダンジョンを発見したんだ!」


男は自己紹介をしながら、タクティカルスーツをまとった姿をカメラに映した。男の顔は緊張と期待に満ちており、目は輝いている。


「知っての通りダンジョンは世界中に増えてるけど、全部の国にあるわけじゃない。

逆に俺の住む街みたいにダンジョンが複数出現した所もある。

そして俺たちのような下っ端の冒険者に開放されてるダンジョンは、やたらとモンスターが強かったり、内部が凄く小さかったり、金になりそうなものが何もないようなところだけだ。

でも今回のダンジョンは違う。発見したばかりだし、なにより特別なんだ!」


男は興奮を抑えきれないといった表情を浮かべている。


「まず雰囲気からして違う。セレスティアルマナってやつ? それがすごく濃い感じがする。ちょっと入っただけで、ここは本気装備を付けて出直さないとヤバイって感じたくらいだ」


男は身に着けている装備と散弾銃を見せる。それは彼の決意を物語っているようだ。


カメラは男の後を追ってダンジョンを目指す。



そこで映像が切り替わり、ダンジョンの入り口が映った。


そこには治安部隊が武装し、厳格な警備体制を敷いていた。


「皆さん、あれを見てください。武装警備員がダンジョンへの立ち入りを阻止しています。

くそっ、一昨日見つけたばかりなのに……ダンジョン治安総局の奴ら、一体どこから嗅ぎつけたんだ?」


男はダンジョンの入り口に近づこうとするが、すぐに武装警備員に阻止される。


「おい、君たち! 危険だから入るな! ここは立入禁止だ。無謀な行動はしない方がいいぞ」


警備員の一人が男に叫ぶ。その声はカメラのマイクにも拾われていた。


「ここは俺が最初に発見したんだ。俺たちが見つけたんだから、一番最初に中に入るのは当然だろ? いいから中に入らせろよ!」


男は警備員の言葉を聞きながらも頑固に反論する。


「それは危険すぎるぞ! 私たちが警備しているのは、ダンジョンの危険から人々を守るためだ。君らが中に入って何か起きたら、俺たちが責任を問われるんだぞ」


別の警備員が説得しようとするが、男は聞く耳を持たない。


「うるさい、適当な理屈を並べてお前らが独占したいだけだろ」


男は警備員を罵倒すると、カメラに向かって言う。


「皆さん、見てください。これがダンジョン治安総局の本性です。彼らはダンジョンの秘密を隠して、自分たちだけが利益を得ようとしています。これは許せません。俺は真実を暴くために、このダンジョンに入ります。皆さんも応援してください」


男の言葉を聞いた警備員の対応が、突如冷たく機械的なものに変わる。


「お前たちは私有地に不法侵入している。いますぐに立ち去るか、罰を受けるかだ」


「何言ってんだ、ここは親戚の叔父さんの土地だ。それに、少し前までは他のダンジョンにも一般人を入らせてただろ? 俺たちはちゃんと登録してる冒険者なんだぞ。なんでここはダメなんだよ」


男は言い張った。


「ダンジョンは全て国の所有物で、適切に管理する必要がある。今すぐに立ち去れ。我々には不法侵入者を銃殺する許可がある」


それでも男は主張を続け、警備員と揉み合いになった。


「ふざけんなっ! 突然現れて何を偉そうに抜かしてんだよ。間違いなく俺が一番最初に見つけたんだ。発見者なんだから権利があるだろ」


男はカメラマンと一緒に警備員を突き飛ばしてダンジョンの奥に進もうとする。

突然、銃声が響き、カメラは地面に落ちた。画面は揺れてぼやけているが、男の姿や血しぶきが見える。



「え? なんで……」男はうなり声を漏らし、困惑の表情を浮かべた。


カメラは暗転し、遠くから悲痛な叫び声と銃声だけが聞こえてくる。


『真実を明らかにし、正義のために命を犠牲にしたダンジョン・デストロイヤーを追悼します』と、画面にはテキストが表示された。


画面はブラックアウトし、厳粛な雰囲気だけが残る。




この映像は非合法なフリマサイトで販売されていた、ある冒険者のライブ動画の一部である。






◆◇◆◇◆






User1: [ソーシャルメディアへの投稿]

「ねぇ、冒険者養成学校について知ってる人はいますか? あの件はどうなったのですか?」


User2: [User1 の投稿に応答します]

「ああ、それについて話しましょう。 冒険者養成学校は債務奴隷の養成施設です。 すべての料金を請求されます。 怪我をした場合は治療を、機器が壊れた場合は修理をします。 しかし、ここに落とし穴があります。そもそも、こうした状況を回避することが非常に困難になるのです」


User1: 「本当ですか? それはめちゃくちゃに聞こえます。 彼らは意図的にそうしているのでしょうか?」


User2: 「そのようですね。 それは彼らの手口の一部です。 彼らは、怪我や機器の損傷のリスクを高めるトレーニングシナリオを意図的に作成します。 まるで研修生の不幸を通じて自分たちの利益を最大化したいようです」


User3: [会話に参加します]

「事実です! 適切な安全対策や指導なしに、研修生を限界まで追い込みます。 彼らは研修生の教育や健康を確保することよりも、お金を支払わなければならない状況を作り出すことに興味があるようです」


User1: 「それはひどいですね! 冒険者志望者から搾取している責任は関連省庁にもあるはずです。 私たちは彼らの慣行を暴露し、他の人がこの罠に陥るのを防ぐ必要があります」


User2: 「そうですね、 彼らの怪しい活動に光を当てる時が来ました。 彼らは人々の夢と冒険への情熱を利用しますが、研修生は返済不可能な借金を背負うことになります」


User1: 「この問題に注目してもらうために、証拠を集めて知識を共有しましょう。 私たちは他の人々に警告し、冒険者養成学校に対して改善を要求する必要があります」


User2: 「もちろんです! 私たちはソーシャルメディアを使用して自分たちの声を広め、より多くの聴衆に届けることができます。 彼らの欺瞞的な行為の犠牲者がこれ以上増えないようにしましょう」


この会話ログはすぐに削除された。それ以後、彼らの発言を見たものはいない。






◆◇◆◇◆






カメラは、薄暗い部屋の中に座っている少年にズームする。体格は小柄で十代前半と思われるが、青白い顔色をしており、目の下にはクマができていた。 彼は後悔と絶望が入り混じった表情でカメラを見つめる。


「最初はすごく期待しました。だってダンジョンですから。信じられないようなことが実際に起こったんです。世の中も自分の人生も、少しは良い方向に変わるんじゃないかと思っていました」


少年は大きくため息をつく。


「でも、違ったんです」


少年は緊張した面持ちで語り始めた。


「今、ボクは冒険者養成学校にいます。しかし、ここは学校ではなく刑務所です。研修生たちを監禁し、強制労働させる刑務所です。冒険者ギルドや政府や企業が仕掛けた罠なんです。彼らは自分たちのことしか考えておらず、私たちをお金儲けの道具としか見てないんです」


少年はこぶしを強く握った。


「彼らはボクの冒険者としての成長も、経済的利益も、社会的貢献も気にしませんでした。彼らが気にしていたのはボクをどのように利用できるかだけでした。彼らはボクに訓練、支援、指導を約束しました。しかし、彼らはすべてについて嘘をつきました。彼らは訓練をせずに搾取しました。彼らは支援をせずに見捨てました。そして彼らはボクを導かず、騙しました」


少年は数字と記号が書かれた紙を掲げた。それは契約書や請求書のように見える。


「代わりにこれをくれたんです」


声を震わせながら少年は言う。


「債務契約です。ボクを一生拘束し、彼らに労働とお金を毎月支払うことを強制し、従わなければ所有物をすべて奪われる契約です」


少年は紙を丸め、カメラに向かって投げた。


「ボクの人生は、もう詰んでいます」


少年は目に涙を浮かべながら言った。


「それでも何とかしようと努力はしたんです」


声を落として少年は言う。


「役所にも冒険者ギルドにも相談しましたが、全然話が通じませんでした。詐欺師ばかりです。みんな裏で協力してやっているんです」



少年は必死の表情でカメラを見つめる。



「お願いします。お願いです、この動画が消される前に少しでも拡散してください」

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