期待外れのユニークスキルでいずれ最強~このクソみたいな世界はボクが必ずぶっ壊す~
水埜小波
プロローグ1
カメラがオンになり、薄暗い部屋のソファーにふてぶてしく座る人物が映し出された。SNSで情報発信をしている有名なインフルエンサーだ。
彼は苦悩するような表情を見せるとゆっくり立ち上がった。こめかみを指先でこすり、少し疲れた声で話し始める。
「ダンジョンが出現してから半年が経ちましたが、既に一生分の驚きを味わった気分です。 街の真ん中に巨大な穴が開き、その中には異形の生物たちが住んでいる。このような世界に自分が住むことになるとは思いもしませんでした」
男は部屋を歩き回り、コルクボードに固定された記事や写真を指差す。
「これらのレポートを見ましたか? まるで出来の悪いSF映画のようですが、それは私たちのすぐそばで実際に起こっています。さらに悪いことに、ある国の政府はこれらのダンジョン内に採掘施設と工場を建設することを決定しました。突然現れた意味不明な空間で人々を働かせるつもりなのでしょうか。彼らは正気か?」
フラストレーションが高まった表情で、彼は行ったり来たりしながら話しを続ける。
「つまり、わかりました。彼らはダンジョン内にあるものは何でも手に入れたいと考えています。しかし、その結果を考慮したことがあるのでしょうか? 未知の空間、未知の生命。それが引き起こす可能性のある悲劇。それは火遊びのようなものですが、この火が人類を滅ぼす可能性がある!」
彼は深呼吸をして座り直し、深刻な目でカメラを見つめる。
「そしてここからが本題です、皆さん。どうやら、これらのダンジョンには『セレスティアルマナ』と呼ばれる伏在的なクリーンエネルギーが存在します。そんなことが信じられますか? それを利用することで、化石燃料や原子力に代わる新たなエネルギー源を得られるかもしれない。私たちは金儲けのために争いながら、世界のエネルギー危機を解決できる手段について話さねばならない。それは気分の悪い冗談のようなものだ」
信じられないといった感じで大げさに首を振り、諦めが混じった表情を浮かべながら男は続ける。
「でもねえ、たとえ私たちがそのセレスティアルマナをなんとか利用できたとしても、それは本当に重要なんですか? 周りを見てください! ダンジョンの所有権や管理権の争いが激化し、国際的な紛争や戦争が起ころうとしている。ダンジョンは人々の経済格差や文化的な格差を拡大させる可能性がある。それは私たちの世界を本物の悪夢に変えるでしょう。私たちは互いに戦ったり、資源を奪い合ったりして、本当に大切なことを忘れ去ろうとしている」
カメラが窓に向かってパンし、混沌と化した街並みが映し出される。
「もう危険なのはダンジョンのモンスターだけではありません。それは私たちです。人類が真の怪物になったのです。私たちは権力や金を巡る争いに明け暮れ、自らを滅ぼす運命に向かっています。まさか目撃するとは思わなかった狂気だ」
机に手をつき前かがみになり、悔しさと絶望が入り混じった表情で男はつづける。
「社会は崩壊しつつあります、希望は残っているのでしょうか? 失われたものを再構築することはできるのでしょうか? 私たちはこれらのダンジョンとそれらを巡る人々の欲望と共存する方法を見つけることができるのでしょうか? それとも、その過程で私たちは自らを滅ぼす運命にあるのでしょうか?」
思案する男にカメラはゆっくりとズームする。
「わからない……本当に大切なことは何かを再考し、団結する方法を見つける時期が来たのかもしれません。もしかしたら、人類がこの混乱を生き延びるチャンスがあるかもしれない。それまでは、私たちはこの歪んだ現実に囚われても、共通の価値観や目標に向かって協力し、明るい未来を目指さなければならないのです」
遠くを見つめる彼の姿が小さく映し出された。
◆◇◆◇◆
カメラは再びインフルエンサーの姿を捉える。しかし、彼の言葉は以前のものとはまるで異なっていた。
「我々は国家の誇りと利益のため、戦わねばならないっ! 我が国の未来はダンジョンにかかっている。他の国がそれを手に入れようとするなら、我々は断固として抵抗しなければならない」
かつて語った疑念と懸念は、強烈な愛国心と国家の利益への熱意に置き換わっていた。男はこぶしを何度も振り上げ、情熱と確信に満ちた眼差しで語りかける。
「私はダンジョンの存在が我々にもたらす可能性を見誤ったのかもしれない。我々はその場所にある全てを他国に譲るべきではない。希少な鉱物、生体素材、革命的な発見や発明を生み出す知的資産源。それは国家の誇りと繁栄に不可欠なものだ」
カメラは室内から外へと向かう、そこには荒れ果てた都市の風景が広がっていた。
「ダンジョンは我々の未来を決定づける場所となった。他の国々はその資源を欲しがっているが、我々はこれを守り、我が国を強化しなければならない」
カメラはコルクボードにフォーカスする。そこには無駄に複雑な戦略情報とダンジョンの位置関係が示された地図が掲示されている。
「我々は国家の誇りと未来を守るため、ダンジョンの管理権と利用権を守り抜く。我が国が強大でありつづけ、繁栄する未来を得るために、我々は共に戦うのだ!」
話を終えた男はしばらくの間、熱っぽい眼差しをカメラに向けていたが、ふと窓の外に目を向ける。静寂の中、遠くを見つめながら物思いにふける男を残して、映像はゆっくりとズームアウトした。
◆◇◆◇◆
動画の投稿者は、自らを「トゥルースシーカー」と名乗っており、政府のダンジョンに関する陰謀を暴くことを目的としていると主張しています。動画の内容は、以下の通りです。
ども、皆さん。今回は俺が最近キャッチした、ちょっとウワサっぽいインフォをシェアしちゃうよ。
これ、まるで政府の秘密を掴んだような超ビビらせるネタで、なんかヤバいっす。
メディアやSNSなんかでは、ダンジョンに挑むやつらを冒険者だの英雄だのって持ち上げてるけど、ウチらが知ってるのとはちょっと違う感じなんだよね。
奥の方まで行ってるヤツら、借金抱えた貧乏人をヤクザが手配して送ってるって聞いたことあんだけど、実際にはどうなんすかね?
これ、政府が裏で何かやってるっぽい雰囲気あるっすよね。
それにしても、最近ダンジョンに関する危険性についての報道や討論が急激に少なくなってるのが気になるっす。
初めのころ、ダンジョンが出来たときは、プロの調査員が超スゴイギア着て、超慎重に突入してたんだけど。
今じゃ浅いとこなら、ただのオッサンとかが普段着で入り浸ってるの当たり前っぽいっす。
学者なんかは最初のリサーチから、ダンジョンにはヤバい生き物がウジャウジャいるって言ってたっすのにね。
それに、未知のウィルスとか、寄生虫とか、とにかくわけのわからない危険がたくさんってウワサもあって、マジで心配っすよ。
実際、今もけっこうな数の冒険者がダンジョンの中でクソ死んでるって聞いたことあるっす。
なのに政府は冒険者を正式な仕事に仕立てて、国がその活動を全てコントロールするって宣言したっす。
でもって、もっとたくさんの冒険者を送り込むプランも進行中っすよ。
それと、国外ではダンジョン内に広がる"セレスティアルマナ"っていうよくわかんないエネルギーに注目が集まってるっぽいっす。
これに触れた人々には、特別な効果があるってウワサ。
そうなる確率は超低いらしいけど、政府が何かしらの人体実験をやってるんじゃないかとか、そんな話もあるっぽいっすよ。
これからも情報をキャッチアップして、政府の陰謀を解き明かしていくつもりだから、もしダンジョンのことで何かウラ情報とか持ってる人がいたら、ぜひ俺たちに連絡してくれると嬉しいっす。
ますますウラが気になる展開が待ってるってことっすよ。
FILE-■■■■は、財団のサーバーに安全に保存されており、認可された職員のみが閲覧できます。
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