第34話 登壇する兄弟
数緒は立ち上がり、
そして、文吾が口を開いた。
「恋愛税について、まず校則の
「生徒会長の浜部数緒です。回答いたします。まず恋愛税の趣旨でありますが、恋愛税導入の目的は大きく二つあります。一つ目は安定財源の確保です。複雑化していく時代の中で、2年後に控える50周年記念、老朽化したインフラの修繕、教育プログラムの拡充などを年々歳出は増えていくと予想されます。そのため、安定した財源の確保として新たな税制度として、恋愛税の導入を提案した次第です」
一度、数緒は息を吸った。今回の目玉の議案ではあるが、ここにいるクラス代表はこの手の建前を聞き飽きている。ちらほらと寝ているクラス代表が目に入った。
「二つ目は、生徒の不適切な恋愛に対する規制です。近年、恋愛を理由に部活動や学業を
不適切なのはおまえんとこの会計だろ、とヤジが飛び、講内に笑いが起こる。こういう下品なヤジにいちいち目くじらを立てたりはしない。静かになるのを待って、数緒は続ける。
「続きまして、恋愛税の内容につきまして説明いたします。先ほど述べました通り、恋愛を認可制としまして、申請をいただいた方に対して恋愛認可証を発行します。この恋愛認可証の登録料と更新料としてTコインを徴収するという形で運用していく予定です」
「恋愛を認可制にするって話がそもそもおかしいと思いますが、そんな制度に従う生徒がいるでしょうか? 僕だったら申請なんかしません」
「無許可で恋愛している生徒をどのように取り締まるかという質問と受け取ります。まず、恋愛許可証がないとできない行為は、性交渉、過度な性的接触、または個室に二人きりのような性的接触を疑われる行為等です。二人きりで出かける等は友人関係でも行われますのでケースバイケースでの判断となります。これらの行為を無許可で行った場合、罰則が科せられます」
「そんなのどうやって調べるんですか? 生徒一人一人を監視でもする気ですか?」
「取り締まりの方法について、十分に生徒のプライバシーが考慮されなければなりません。今のところ、生徒の善意を前提として考えていますが、いずれは申告制での取り締まりが提案されています。一例としまして、周囲の生徒が無許可で恋愛関係にあることがわかった場合、それを認知した者は生徒会に報告することを義務づけます」
「驚いた。生徒全員を監視員にするつもりか、あんたは!」
「申告制の校則は既にあります。今回の恋愛税についても同じ方法が適用できると述べているに過ぎません」
「……、制度、運用に関してはわかりました。だけど、そもそも僕は、恋愛税の趣旨そのものに反対しています。だって、普通に考えておかしいと思いませんか? 恋愛をすると罰金がとられる。これじゃ、恋愛がわるいことみたいじゃないですか!」
「税金は罰金ではありません。罰金とは法を犯した際の制裁であり、税金とは財源確保のための徴収です。恋愛税に恋愛を取り締まるという意図はありません」
「僕達、一般生徒からしたら一緒です。恋愛をするなら金を寄越せ。まるでギャングだ。こんなことをされたら恋愛するのを諦める生徒だってでるかもしれない」
「恋愛をしている生徒達に多少ご協力をお願いする形にはなります。ただ決して大きな負担ではありません。それに徴収した税金は学園のために使われます。結果的には生徒に返ってくるんです。つまり、一方的に奪われるような考えは誤りです」
「負担が大きいか小さいかは個人に依る。負担を大きいと感じる生徒だっているはずです。それに、あんたは、いえ、会長は以前に恋愛は贅沢品と一緒だと僕に言いました。学生には不要なものであると。つまり、どんな言い訳をしたとしても、生徒会に恋愛を禁止する意図があるのは明白です!」
「……それは違います」
少し口が滑ったな、と数緒は自嘲した。あのときは、学民党OB会を後に控えており、早く文吾を帰したくて、テキトーを並べてしまった。さて、この意見を議事録にただ残すわけにはいかない。数緒は、メガネを直してから、かるく笑みをつくってみせた。
「むしろ逆です。私は恋愛税を通して、恋愛を推奨したいと考えています」
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