第2話 クソメガネとサッカーバカ
「おい! クソメガネ!」
扉が勢いよく開かれたのを見て、
「文吾、ここには来るなと言ったはずだ」
「うるさい。僕の自由だ!」
「自由じゃない。一般生徒の立ち入りを受け入れていたら、ここが人で溢れかえってしまうだろ」
「そんな話はどうでもいい。恋愛税って何だよ!」
どうでもよくはないのだが、と数緒はメガネをくいと持ち上げた。
「もうニュースになっていただろ。報道にあった通りだよ」
「恋愛に税金をかけるって頭おかしいのか?」
「別におかしくない。おまえは知らないかもしれないが、生活に不要な
「恋愛は生活に必要だろ!」
「普通はそうだ。だが、ここは学校だぞ。学生の本分は勉強、恋愛は不要だ」
「そんなの兄貴が決めることじゃないだろ!」
「俺が決めることだ。なぜなら俺は生徒会長だからな」
「神にでもなったつもりか!」
「神じゃない。生徒会長だ。現状を分析して仮説をもとに校則を作る。この学園をより良くするためにな」
「良くならないって言ってんの!」
「それはおまえの主観だ」
「だいたいこのタイミングは何なんだよ! せっかく友梨恵と付き合えたってのに!」
「お、そうなのか? おめでとう」
「おめでとうじゃないよ! 別れろって言いたいのか!」
「別に恋愛するなとは言ってない。恋愛をするなら税金を払えと言っているんだ」
「税金って、今でも十分とっているじゃないか。所得税とか消費税とか、スマホ税とかさ。そんなにお金とられたら彼女と遊びに行けないだろ」
「税金も払えないような
「だから税金をとらなきゃいいんだろ!」
「もう決まったことだ。今更こんなところで話しても意味がない」
「
「無理だ」
「兄貴ならできるんだろ。生徒会長なんだから!」
「あぁ。俺にはできる。だが、おまえには無理だと言っている」
そこで数緒は扉の方に目配せをした。扉のところでどうしたものかと戸惑っていた警備員が慌てて駆け寄ってくる。そして、文吾を後ろから
「離せ!」
「離すなよ。あと、足には気をつけろ。そいつはサッカー部のエースだ。うっかり踏んで怪我なんてさせるな」
「この鬼! 悪魔! 増税反対! 撤回しろ!」
「まったく。おまえこそ神様のつもりか。何で一般生徒の意見が通ると思うんだ」
「僕だけじゃない。これはみんなの総意だ」
「根拠は?」
「普通そう思うだろ! みんな増税に反対に決まっている!」
「それは根拠になっていない」
「そっちだってそうだろ。みんなが増税に賛成する根拠なんてない」
「いや、ある」
「何だよ」
「選挙だ」
「!?」
「俺は選挙で選ばれた。生徒会長は選挙により生徒から信任されている」
「そ、それは」
「選挙で選ばれた俺の判断は生徒全員の総意となる。したがって、この恋愛税は生徒の総意。これ以上の根拠はない」
「そうかも、しれないけど」
「逆におまえはどういう立場でそこに立っている?」
「いや、僕は」
「俺の弟という立場だ。いわば
数緒は、メガネ越しに文吾を見据えた。文吾は政治に興味はないがバカではない。このくらいの理屈はわかる。だから言葉が出てこない。とはいえ、納得できずに、ぐぬぬと
「うるさい! 御託はいいよ。こんな校則通るはずない!」
「通すのが俺の仕事だ」
「絶対に通らない。いや、僕が通さない!」
「威勢だけはいいな。だが、おまえにできることは何もない」
「うぅぅぅ! あっ! 生徒総会! 校則は生徒総会で採決するだろ」
「何だ、知っていたのか」
「そこで勝負だ。絶対に恋愛税なんて許さないぞ!」
「いいだろう。せいぜいがんばれ」
まだ
文吾の言ったことは間違っていない。まだ恋愛税は生徒総会に提出されるだけ。そこで可決されなければならない。しかし。
「生徒総会はクラス代表にしか投票権がないのだが、それをあいつは知らないんだろうか」
そんなことをせずに、サッカーの練習に打ち込んだ方がいい気がするが、それは文吾の判断に任せよう。もう子供ではないのだし。
それよりも今はやることがある。
★★★
クラス代表・・・1クラス40人の中から選出された代表。生徒総会での選挙権を持ち、生徒会の提出する校則案にを多数決で可決か否決する。普通の学校ならば、ただの雑用係のような立場だが、多賀根学園では様々な特権を持つこととなる。そのため、多くの者がその座を狙い、クラス代表を決める選挙期間などは大いに盛り上がる。
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