くたばれ! 増税クソメガネ!!

最終章

恋愛税に関する校則案提出!

第1話 生徒会、恋愛税に関する校則案を提出!?

「僕と付き合ってください!」


「はい。私でよければ」



 校舎裏の丘の上。頬を染める葉山友梨恵はやまゆりえのふんわりとした声を聞いて、浜部文吾はまべぶんごは両の手をあげて飛び上がった。



「もう。大げさだよ」


「だって、うれしいんだよ! 葉山さんはうれしくないの?」


「わ、私も、うれしいよ。えへへ」


「そうでしょ! じゃ喜ばなきゃ! やったぁ!」


「そっか。やったぁ!」



 いささか子供っぽいが、高校生の挙動としては許される範囲だろう。長年片思いしてきた女の子に告白して、成就じょうじゅしたのだ。手放しで喜んでもバチは当たらない。


 多賀根たがね学園3年生、サッカー部のエース、浜部文吾。彼と友梨恵の出会いは1年生の冬のこと。雪がこんこんと降る中で、温かいコーンポタージュ缶を手渡したことから始まる。それから1年としばらく、彼らはようやく結ばれることとなった。


 同じく冬の日であれば運命的であったが、初夏の夕暮れ。雪のように積もった思いは待ちきれず、今、恋のもとに解け落ちる。



「友梨恵って呼んでもいい?」


「いいよ」


「友梨恵ちゃん」


「何? 文吾くん」



 二人は見つめ合い、そして歩み寄る。吐息のかかる距離。身長差を合わせるために文吾はうつむき、友梨恵はあごをあげる。どちらからともなく腕を背中にまわし、身体を寄せ合う。


 

「好きだよ」


「うん、私も」



 友梨恵が目をつむったのを契機けいきに、二人の口が重なり合う。かいなや、ちょうどそのとき、タイミングを見計らったようにスマホが鳴った。


 びくっと身体を震わし、慌てて二人は離れた。別にそのまま抱き合っていてもわるくないのだが、誰かに見られたような気恥ずかしさがあったのだ。


 まったく、何だよ。タイミング悪いな。


 文吾は、どきどきとまだ脈打っている自分の心臓の音を聞きながら、ポケットからスマホを取り出した。こんなもの無視してしまってもよかったのだが、先ほどの鳴り方はミュート不可の学園内緊急ニュース。


 とは言いつつも、さほど大したニュースが流れることはない。何かしらの大会でどこぞの部活が優勝したとか、生徒会の役員人事だとか。大会シーズンはこれから始まるので後者だろう。だとしたら余計にどうでもいい。少年の初めての情事を邪魔するには値しない。



「なっ!?」



 値しないはずだった。


 スマホに表示されるニュースのヘッドラインを見て、文吾は絶句する。そこに書かれた文字列が初め理解できなかった。読み返してみてもわからない。これはいったいどういうことだ?



~~~~~


生徒会、恋愛税に関する校則案を提出!?



 生徒会は、次回の生徒総会において、新たな税制改革を提案する方針を明らかにしました。その中で最も注目すべきポイントは、恋愛関係にある生徒に課する税に関する校則案です。


この校則案の提出に先立ち、学民党関係者は、恋愛関係を認可制とし、それに基づき一定の課税を導入する計画であることを明らかにしました。具体的な課税額や詳細な実施方法については、詳細が明らかにされていませんが、生徒会は収入の一部を学園祭に投資すると予想されます。


提案される校則案は、次回の生徒総会で審議され、成立すれば新たな税制の一環として実施される予定です。


~~~~~



「文吾くん、これって?」


「いや、僕も知らなくて」


「浜部会長って文吾くんのお兄ちゃんだよね?」


「あぁ」



 スマホを握りつぶさんばかりに力を込めて、文吾は嫌そうに頷いた。彼を兄と認めるのは、文吾として耐えがたかった。そして、今、このとき彼への嫌悪は憎悪へと変わった。



「ごめん、友梨恵ちゃん。ちょっと行ってくる」



 そう言って文吾は校舎の方へと駆け出した。



「あのクソメガネ!」



 即戦力となる人材を養成するための実験的施策、小国家シミュレーション、箱庭プロジェクト。この学園の中では、予算も校則もすべてが生徒主導で決定される。この物語は、箱庭の中で繰り広げられる愛と税の物語である。





★★★




多賀根たがね学園・・・文科省が実験と称して設立した学園都市。日本海に浮かぶ人工島に校舎、グラウンド、商業施設などが設置されており、大きな経済圏を形成している。高校と大学の一貫のような運用がなされており、学園には7年間在学できる。作中での文吾は3年生、兄は5年生である。

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