第12話 シーの話①

 新見香里奈が殺される5年前、大塚社長はシーら4人に新入社員の香里奈を紹介した。シーたちの新しいマネージャーとなる人だ。香里奈はどこを見ているかもわからないように挨拶をしたが、ほんの一瞬、シーと香里奈は目が合った。

 

-そういうことか


 シーは思った。


 社長たちが去ると、シーたちは練習の振りをすることをやめ、各々に時間を潰しはじめた。


 シーも携帯を開くと、千智からメールが届いていた。


「今日は何時に帰ってくるの?」


 千智は、シーの幼馴染、そして彼女だった。シーは壁掛けの時計を見た。17時を指している。

「20時には帰るよ」と返信すると、携帯を閉じ、鞄の中へとしまった。


「おい、マネなんかどうでもいいだろ。そんなことより練習に集中しろよ!このままだとデビューできねぇぞ!」とエスが叫んだ。

 エスの焦りもやる気もわかるが、これではユニットが崩壊しかねないし、エスも孤立しかねない。シーはエスとユニットのことを心配していた。


「今日はもうみんな疲れているし、これくらいでいいんじゃない?」とシー。

「シー、お前、今、携帯触っていただろ」とエスはシーに噛みついた。

「僕はこのあとも練習するけど、残りは自主練にしようよ」シーが爽やかな笑顔で言うと、エスは黙り込んだ。


 シーは練習室を出て行った。

「新見さん!」とシーは声をかけた。香里奈は窪田悟と話していた。大塚社長は既に帰ったのか、その場に居合わせなかった。

「窪田さん、お疲れ様です」シーは窪田に挨拶した。窪田は長いハットにダボダボのカーキのパンツ、その上から長くて黒いスプリングコートを羽織っていた。

「んじゃそう言うことだから」窪田は香里奈にそう言うと、どこかへ言ってしまった。

「あ、すみません」とシー。

「大丈夫ですよ。話は済みました」と香里奈は笑顔で言った。

「あの、新見さん、能力者ですよね?」とシーは言った。「僕にはあなたが、ピンクのオーラで包まれつつも、心臓では真っ赤に燃えているようにみえます」

「やっぱり!私もさっきそう思ったの!」と香里奈は笑顔で言うと、シーの手を取った。

「初めて同じ能力者に出会った!」と香里奈は嬉しそうにしたが、すっとその手を話した。


「感情が色で見えるでしょ?」と香里奈は言った。

「はい、僕も見えます。何色がどんな感情を示しているかはわからないんですけどね」

「私、分析したことあるから、今度チャート表見せてあげるよ」と香里奈は言った。

「ありがとうございます!新見さん、よろしくお願いします」

「香里奈でいいよぉ〜。これからみんなのマネージャーなんだしさ。仲良くしようよ」


 シーが練習室に戻ると、エスがまだ練習していた。エスは灰色に見えた。

 練習熱心だな、とシーは感心した。


「香里奈さん、僕らに足りないものを補ってくれそう」とシーはエスに言った。その瞬間、ほんの一瞬、エスの心臓が赤く光った気がした。


「シーがそう言うなら信じるよ」

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