第5話 エスの話③

「皆さんのデビューが決まりました!」と香里奈は言った。


 皆、言っていることがよくわからず、ぽかんとしていた。


「え、こう言う時喜ばないの?」と香里奈。

「え、デビュー?」とエス。


「そう!社長のゴーサインが出た!」


「うっ、うっ、うぉぉぉお!」やっとのことで意味を理解したエスが叫んだ。シーとイーは泣き出して抱き合った。アールはその場に崩れ落ちた。ティーは少しだけ、口角を上げた気がした。


「デビュー曲は、『トップ・シークレット』。デモはあとで流そう。それでグループ名なんだけど……」皆、目を輝かせて聞いていた。

「秘密にするっていうのはどうかな?」

「秘密っていうグループ名?」とイーが言った。

「そうじゃなくて、グループ名を隠すってこと。私たちのトップ・シークレットにする」

「まさかのグループ名なしってことっすか?」とイー。

「ええ、そう。面白くない?顔出しNGの歌手とかはたくさんいるけど、名前NGとか、グループ名NGとかって聞いたことないし、話題になると思うんだけどなぁ」

「あり、かもしれないですね。もしそれでうまくいかなかったら、公表すればいいだけですし」とシー。

「でしょう!」

「それで、僕らのユニット名はなんなのでしょう?」とシー。

「これから考える」香里奈は笑うと、デビュー曲のデモを流した。

 流れた瞬間、皆無言になった。童謡のような、ひと昔前のような、なんとも言いがたい楽曲だった。


「だっさ」とエスは叫んだ。「え、これが僕らのデビュー曲?ダサすぎません?」

「僕はいいと思ったよ」とシー。

「あ、一つ考えたの」香里奈はエスの声を無視したを「ファンのこと、クラヴィスって呼ぶのはどう?」

「クラヴィスって、ラテン語で鍵って意味だよねぇ」とアール。

「アール君、物知りだね!そうそう。ほら、デビュー曲のここ、君の心の鍵を開けよう、ってフレーズあるし、どうかな?ファンがカギとなって、アイドルの秘密を解き明かそうっていうコンセプト」

「なんで、そこだけネーミングセンスあるんすか」とイーが言った。「もしかして、俺らの名前がないのも、思いつかなかったとか、そんな理由じゃないですよね」

「とにかく、デビューまでやることたくさんあるから、みんな頑張るよ」と香里奈はイーの意見も無視して言った。

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