第22話 逃走手段
こういうのって、なんて言うんだろう。
軟禁? 監禁?
部屋に閉じ込められて、そこから一歩も出ることが出来ない。いつ出してもらえるかわからない。もしかしたら、一生このままかも。
豪奢な客室は、中を眺めているだけでも楽しくはあるけど、さすがに同じ場所に何日もいたら飽きてしまいそう。
コンコン、と窓を叩く音が聞こえた。
ロディが窓の外にいる。にこやかに手を振ってきた。
部屋の中に入れてあげると、すぐに彼女は頭を下げて謝ってきた。
「ごめんなさい、お父様、ああなったら誰が何を言っても受け付けないの」
「ねえ、ロディ。私、こんなところで、いつまでもとどまっているわけにはいかないの。どうにかして外に出られないかな」
「兵士達が目を光らせているし、難しいと思う……」
だけど――とロディは言いかけてから、また口を閉じてしまった。
「だけど? 何か方法があるの? 教えて」
「お姉様に頼る、という手もあるかな、と……」
「お姉様?」
「ベンテス姉様」
「えええ⁉」
思わず大声を上げてしまった。慌てて、ロディが私の口を塞いでくる。
「しー! しー! なんとかこっそり忍び込んだんだから、騒がないで!」
「ごめん! でも、だって、嘘でしょ⁉ あのベンテスが、お姉さんなの⁉」
ポセイドン王には七人の姫がいる、というのはよく知られている設定だ。でも、まさかのヴィラン・ベンテスが、ロディの姉ということは初耳だった。裏設定だろうか。
「お父様はなぜか隠しているけど、ベンテスはあちこちで言いふらしているから、有名な話。ちゃんと王家の証である、虹の貝のペンダントも持っているから、間違いないわ」
「隠し子……なのかな」
「お姉様は、私には優しくしてくれて、よく声をかけてくるわ。タコに変身して、私の部屋までやってくるの。それで、外の世界のことを色々と教えてくれる」
「だから、ベンテスに頼んで、脱出させてもらおう、っていうこと?」
「お姉様なら、きっと助けてくれる」
「いやいやいや、それはまずいよ!」
「どうして?」
「どうしても何も、ベンテスは、この王国を乗っ取ることしか考えてないんだよ! 迂闊なことを頼んだら、それをいいことに――」
「何それ、ひどい!」
たちまち、ロディは頬をふくらませた。
「ベンテス姉様の、何を知っているのよ!」
「えっと、信じてほしいんだけど、私にはわかるの。知ってるの」
「あの人が私のお姉様だってことも、知らなかったのに」
「それはそうなんだけど、その、本当に私は――」
「もういい! そんなことを言うなら、助けてあげないから!」
しまった、ロディをすっかり怒らせちゃった。
ロディは怒ったまま、開いた窓から、泳いで外に出た。そこで、一旦止まって、振り返ると、寂しげに呟いた。
「……友達になれると思ったのに」
私が止める間もなかった。ロディは海の中を猛スピードで泳ぎ、どこかへ去っていってしまった。
「どうしたら、いいんだろ……」
一人残された私は、頭を抱える。だだっ広い部屋のど真ん中で、ポツンと佇みながら、ロディがいなくなったことによる孤独に打ち震える。
「エイジ……そうだ、エイジと話すことができないかな」
隣の部屋に行きたいけど、廊下に出るわけにはいかない。ロディのように窓から外へ出入りすることもできるのだろうけど、それだって、私が出たら、たちまち兵士達に取り囲まれるに違いない。
壁を叩いてみたけど、重たい音が返ってくる。けっこうしっかりした造りになっているようで、ノック音も、声も、何も届きそうにない。
「どうしよう……」
そこで、ふと、天井へと意識が向いた。
よく映画で見たことがある。天井裏を通って、隣の部屋へと移動するシーン。そんな感じで、どこかから入れないか、探してみることにした。
部屋の中も海中なので、上へと移動するのは簡単にできる。バタ足で泳いで、天井まで接近してみた。
叩いてみると、軽い音がする。海中だから、天井裏なんて必要ないように思うのだけど、何か理由でもあるのだろうか。とにかく、向こう側に空間があることを知って、胸の内に希望が湧いてきた。
部屋のど真ん中に、シャンデリアがある。その根本のあたりは、違う色の板が嵌め込まれているので、上手く取り外せそうだ。
天井に足をついて、踏ん張りながら、シャンデリアの根本を持って、力任せに引っ張ってみる。ビクともしない。じゃあ、ちょっと板をずらすように動かしてみたらどうだろう、と色々試していると、ガコンと音を立てて、シャンデリアの根本の板が外れた。
音を立てないように、シャンデリアをベッドの上に運んでいき、そこにゆっくりと下ろす。
それから、天井裏に入ってみた。
思ったより狭いけど、なんとか進めそうだ。エイジのいる隣の部屋へと向かって泳いでいく。
たぶん、エイジの部屋の天井裏だろう、と思うポイントで、外せそうな板を見つけて、動かしてみた。ガコン、と外れる。この板も、シャンデリア付きのようだ。落下しないように支えながら、部屋の中へと入っていく。
「あれ?」
「あ」
すぐ目の前に、エイジの顔があった。ドキッとした私は、思わず、シャンデリアを放してしまった。
「な、なんなんだ、お前は! いきなり変なところから出てきて!」
慌ててシャンデリアを掴んだエイジは、私に向かって怒りをぶつけてきた。
「そ、そっちこそ、なんで私が出てすぐのところにいたのよ!」
「なんとか脱出できないかと思って、天井を調べていたんだ! そうしたら、そこの板が外れそうなことに気が付いて、触っていたら、突然お前が出てきた!」
「脱出⁉ もしかして、私のことを置いて、一人で逃げようと考えていたわけ⁉」
「お前を助ける義理は無い」
「最低! 女の子を見捨てて逃げるなんて、そんなの紳士の振る舞いじゃないわ!」
などと騒いでいたせいで、兵士に気が付かれたようだ、思いきり外から、ドアをドンッと叩かれた。
「うるさいぞ! 何を騒いでいる!」
私はいまさらながら自分の口を手で塞いだ。幸いなことに、兵士は、エイジが一人で騒いでいたと思ったのか、ドアを開けて中を覗くようなことはしてこなかった。
「……とりあえず、静かに、作戦を練るぞ」
「……ええ、それについては賛成よ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます