第5話 素敵なドレスにときめく私

 自分の部屋に戻ってから、私は無い知恵を振り絞るように、頭をフル回転させた。


 つまり、どういうことになるんだろう。


 ゼラは、偶然魔女と出会うことで、成り上がるための力を手に入れた、ラッキーガールだとばかり思っていた。


 けれども、実際はそうじゃなかった。


 ゼラ自身が実は私達一家に対してけっこう恨みを抱いていて、これまで虐げられてきた復讐を果たそうと、暗い情熱の火を燃やしている、いわば策士だったのだ。


 表面上はおとなしくて可憐な悲劇のヒロインを演じながら、裏では下剋上を狙っているなんて……恐ろしい子……!


(どうしよう、このこと、ディアドラとかヴァイオレットに相談すべきかな)


 私一人では太刀打ち出来ないかもしれない。誰か協力者は必要だ。


 ああ、でも、ダメ! ゼラの本性を暴露してしまえば、ディアドラとヴァイオレットは、ますます彼女への当たりを厳しくしてしまうことだろう。


 物語の展開、「プリンセス・ゼラ」のプロットはこうだ。


 ①義母とその娘達にいじめられる妾の子ゼラ。

 ②ある日、お城で開かれる舞踏会に着ていくドレスを、スカーレットにズタズタにされる。

 ③悲嘆に暮れたゼラは、迷いの森へと行き、そこで命を絶とうとする。

 ④そこへ魔女が現れて、魔法をかけてくれる。

 ⑤立派なドレスを着て舞踏会に行ったゼラは注目の的となり、王子パーシヴァルに見初められる。

 ⑥夜12時には魔法が切れるため、急いで舞踏会から逃げ出すゼラ。

 ⑦王子はゼラを探し求めて、王国中を探して回る。だけど、ゼラは、ディアドラとスカーレットの策略により、家の中に監禁されていた。

 ⑧魔女の使い魔であるネズミに助けられ、家から脱出したゼラは、王子に会いに行く。

 ⑨途中、ディアドラが差し向けた暴漢達によって、ゼラは窮地に陥る。だけど、そこへ颯爽と現れる王子。

 ⑩助けられたゼラは、王子と結ばれることとなる。そして、ゼラをいじめていたディアドラ一家は、国を追い出される。ハッピーエンド。


 もしも、運命がこの通りに進んでいくのだとすれば、ゼラをいじめるようなことは絶対にしてはならない。いじめればいじめるほど、彼女が迷いの森へ行き、命を絶とうとする確率が高くなる。そうなると、魔女と遭遇してしまう。


 あるいは、最終的にゼラが王子と結婚することになったら、これまでのいじめを理由に、私達のことを国から追放するだろう。


 ……ああ、でも、それについてはいまさらか。ゼラはもう私達のことを憎んでいる。いまから親切にしたところで、きっと、その恨みは晴れないことだろう。


 となると、やれることは二つ。


 ゼラを絶対に舞踏会に行かせない。さらに、迷いの森にも行かせない。


 この二つをクリアすれば、ゼラがプリンセス・ゼラとなる確率はグンと低くなるはずだ。


 よし、方針は決まったわ! さっそく、明日から動かないと!



 ※ ※ ※



「みんな、集まって。舞踏会に着ていくドレスが仕上がってきたわよ」


 ディアドラに呼ばれて、私達は一階へと集まった。そこには、色鮮やかで、宝石を散りばめた豪奢なドレスが、四人分飾られている。


 ゼラがアニメの中で、魔法で着せてもらうドレスも素敵だったけれど、やっぱり名家が特別に仕立ててもらったドレス、それもリアルな現物となって目の前に置いてあるものの迫力には負ける。


 ディアドラは緑色のドレス、ヴァイオレットは紫色のドレス、私スカーレットは赤色のドレスで、ゼラは水色のドレスだ。


「わあ……ありがとうございます、お母様」


 ゼラはうっとりとした様子で、自分の水色のドレスを上から下まで眺め回している。


「今度の舞踏会は、プリチャード家の命運がかかっているわ。本当なら、あなたには留守番を頼むところだけど、今回は特別に舞踏会に出させてあげる。その代わり、しっかり務めを果たすのよ」


 理由があるとはいえ、ディアドラは思ったよりも優しい面がある。徹頭徹尾、ゼラのことをいじめてばかりではないんだ、と思った。


「いいこと? あなた達の使命は、このプリチャード家を末永く繁栄させること。そのためには、次期当主となる子供を産んでもらわないといけないの。舞踏会には、王族や貴族、名家の人々が大勢集まるわ。そこでいい人を見つけて、射止めるのよ」


 そういえば、この家には父親の姿がない。どこにいるんだろう。それとも、もう亡くなったのか。


 ともあれ、ドレスを前にして、だいぶテンションが上がってきた。


 舞踏会! 夢にまで見た、おとぎ話のイベント! そこに私が参加できるなんて、夢みたい、だと思った。


 ああ、だけど、浮かれてもいられない。喜んでいるゼラには悪いけど、彼女を何としてでも舞踏会には出させないようにしないと。


 かと言って、ストーリー通りにドレスをズタズタにすれば、嘆き悲しんだゼラは迷いの森へと行ってしまうだろう。その展開は一番最悪の流れだ。魔女と繋がりが出来てしまったら、あっという間に、私達一家は没落の道を辿ってしまう。


 ここは、舞踏会にも行かせないし、迷いの森へも行かせない。その二つの条件を満たすように、上手く立ち回らないといけない。


 そこで、閃いた。


 それはあまりにも残酷で悪魔的な考え。


 でも、こうするしか他に道は無い。


 ゼラの飲み物に、嘔吐と下痢を催す毒を混ぜて、彼女を強制退場させるんだ……!

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