番外編・終 ジョフロワの墓前にて・③

 私ももうおばあちゃん。

あなたが殺された後から無我夢中でイヤン商会を取り仕切っていたけれども、年かしら、そろそろ体が辛くて。目もかすむことが多いの。耳も、ぼんやりしていると私を呼ぶ声が聞き取れなくて。

でもね、イヤン商会の未来の5代目がしっかりとやってくれているから、もう……安心しても良いかしら。マオンは『青二才』って容赦なくしごいているけれども。


 本当はマオンが私を好きだったことは気付いていたわ。でもどうしても可愛い弟としか思えなかったの。今でもあなたが好きで、あなたに会いたくて1人で泣いてしまう。体の傷は何とかなるけれども、心の痛みだけはいつまでも残るのね。


 この国はとても面白くなったの。腐った貴族がいなくなって、良くも悪くも平民そのものが義務と未来を背負って生きていく国になったから。政治を風刺する絵を雑誌に載せて売り出しても怒られないの。特定の個人を侮辱するのはいけないけれどね。

魔族とも敵対せずに良き隣人としてつかず離れずで付き合っている。

今の大統領は3代目だけれど、もし間違った政治をやれば対立する政党が力を増して、交代させることが出来るの。


 この政治の形が完全に正しいとか、素晴らしいとは言わないわ。でも、今までの最悪の中では最善の形じゃないか……とは思うのよ。


 ええ、閣下はね、奥方様ともどもお元気よ。お子はいないけれども今でも仲睦まじくてね、羨ましいくらい。あなたともあんな夫婦でいたかった。オールーンの街で孤児院を運営がてら、今は『アルルカン』の二代目の団長が支配人をやっている平民劇場で、新しい魔道器の……【録画装置】だったかしら?それを試しているみたい。子供達の成長する姿を少しでも記録したいのですって。

 政治家としては引退したけれども、相変わらず英明公と賢夫人として敬われ慕われているわ。

なのに、時々ちょっと自信がなさそうな顔をされるのは……借金まみれだった時から変わっていないのよ。あれはもうどうにもならないわね。自分を卑下する言葉を口にしなくなっただけ良いわよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る