番外編・終 ジョフロワの墓前にて・②

 魔道器の売れ行きも順調だし……そうそう、雑誌という平民向けの安価で量産できる本もね、大人気なの。首都ではほとんど初日に売り切れてしまうのよ。

イヤン商会でも発刊しているのだけれど、中でも小説って言うのかしら?

創作の物語が大人気で、続きが気になって仕方ない、続きを教えてくれって問い合わせが殺到しているの。

どんな物語かって?

そうね、一番人気の小説はね、『英明公が魔王と力を合わせて邪神をやっつけて世界樹を救い、義兄弟となった後は、腐った貴族や王家の陰謀や王国の闇に立ち向かい世界を立て直す中で、美しくて賢くて強かな女性の奥方様と恋に落ちる』……という筋書きよ。

ペンを振るっているのはグレイグさんの所の上のお孫さんで、挿絵はアズーラン君の一番下の息子が描いているのよ。

……実際を知っている私からすると、脚色と……独創性が凄いと思うわ。

借金まみれでどこか卑屈だった頃の閣下を知っているから、余計にね。いくら試供品を差し上げても、ずっと貧相なままで……。


 今でも思うの、閣下の所に奥方様が来てくださって本当に良かったって。奥方様はずっと閣下が好きで、買い物にかこつけて呼びだした私達から色々と聞き出して、恐らく貴族達の中でただ一人だけ本物の閣下をご存知だったから。

いつでも閣下の婚約者になるためにと懸命に励んでいらっしゃった。ただ優しいだけじゃなくて、一人だけで黙って泥をかぶる閣下の有様に長らく憤っていて下さった。

マオンがこっそりと『恋する乙女は鉄より強い』とか言っていたくらいに、純情で、強かで、同じ女から見ても美しくて惚れてしまいそうだったわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る