番外編 詐欺師だった僕・⑥

 ……オールー公爵領が落ち着いてきた頃に、少し不細工な娘が生まれた。

小さくてふにゃふにゃで必死に産声を上げている娘を抱き上げた時、涙が止まらなかった。

妻とこの子を僕は責任を持って幸せにしなきゃいけない。

愛しいとか可愛いどころじゃない、僕の希望と幸せの全てだと直感した。

人一人の人生を背負うという凄まじい重責こそ、孤独の海で溺れそうになっていた僕に差し伸べられた救いの手だった。

家族がいる限り、僕は詐欺なんて金輪際出来ない。

二度と正義を振るって気持ちよくもなれない。

気持ちよく正義を振るった先にも、きっとこの子のような存在がいるのだろうから。



 「ママー!おねえちゃんがぶった!おねえちゃんがぶった!うわあーーーーーーーーーーーん!!!!」

「ちがうもん!あたしのおにんぎょうをとったの!だからぶったの!」

「「ウギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」」

「こらっ!ああ、もう!!!暴力はダメって言ったじゃない!止めなさい!めっ!噛みついたらダメよ!髪の毛を引っ張ったら痛いのよ!だから2人とも止めなさい!

パパお願い、何とかしてーーーーーー!」

廊下の向こうの浴室で下着一枚の姿でせっせと床を洗っていた僕は、既に娘達の大騒ぎやら妻の叫びやらを聞いていたからとりあえず足だけ拭いて子供部屋に駆け込んだ。

この子達は揃って気が強いから、喧嘩したら取っ組み合いになるのだ!

「先に二人を引き離そう、同じ部屋にいるとどうしてもカッとなってしまうようだ。

今度はパパが隣の部屋にお姉ちゃんを連れて行く、ママは妹ちゃんを頼む!落ち着いたらまた仲直りの約束をさせよう」

「分かったわ!」



 でも、こんな騒動でさえ――いつか僕が死ぬ前に振り返った時には、微笑むことが出来る思い出の一つになってくれると分かっているんだ。

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