番外編 詐欺師だった僕・④

 僕の貧乏暮らしが始まった。雨漏りのする家で寝起きして、閣下の執務を手伝う。

……どうやってこの量を今まで1人で捌いていたのかと疑問に思うほどの仕事を振り分けられて、朝から晩まで仕事漬け。人手が足りない時は農作業も手伝う。初めての時は、腰の痛みが凄かった。

辛うじて食事は出るが、貴族の食事とは思えないほど質素で、肉が並ぶことは滅多に無い。騎士団の仕事の合間にグレイグがテテ河で網を投げた時、魚が出てくるくらいだった。風呂は冷たい水。冬でも水だったのには本当に困った。それで風邪を引いたから。


 オールー公爵領には収入がない。収入源もない。雨季にテテ河が氾濫した時に農地をごっそりと根こそぎにするからだ。しかも王都とやり取りするにはイルバス男爵領を通る街道しか無くて、そのやけに曲がりくねった道には関所が無駄に並び、高い通行税を取り立てる。商人が寄りつくような、目立った特産品もなし。

……何より、一番の困ったところは、魔族共が毎月のように街を襲って男を殺し建物を壊すことだ。


 野良犬と鳥の魔物が転がっている死体をあさっている、疫病も流行っている、治安も極悪。領民は痩せ細っていつも俯いている。


 中でも腹が立ったのは、一応はオールー公爵家の分家と言う立場にあるイルバス男爵の一家が、閣下や領民をバカにするために、呼んでもいないのにやって来るか、通行税を一時的に引き下げると言う口実で閣下を呼び出しては、酷く侮辱していたことだった。


 連中に『豚』と嘲られて俯いて震えている閣下を見た時は、体中の血が逆流するかと思った。それからは連中を僕が口先で丸め込んで追い払うか、絶対に通さないようにグレイグに頼んだ。


 ……今でも思う。

オールー公爵が閣下でなかったら、とうの昔に全員が終わっていただろう、と。

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