番外編 兄を手にかけた弟・②
……話を戻すぜ。
親父は兄貴の体が弱いことを気にしてた。魔王ってのはとにかく体が頑丈でないと務まらねえからよ。
でも俺は兄貴を差し置いてまで魔王になりたくなかった。
兄貴は魔石を魔物の体から取り出す技術を開発した、すげえ男だったからさ。
でも兄貴は俺こそがふさわしいって、しぶとく言い張ってよ。
何度も何度も全員で話し合って、最終的には、兄貴が魔王をやる、その名代は俺様がやる……って所で落ち着いたんだ。
邪神のクソ野郎が聖なる緑の園を襲撃したのは、アズーランの3才の誕生日で、世界樹様の前でみんなして感謝の祈りを捧げていた時だった。
兄貴はいつものように寝たきりで家にいたけどよ、出かける前にアズーランを抱きかかえて笑ってさ、『こんなに大きくなったんだねえ』って。
アズーランは俺様より兄貴の方に懐いていたくらいだったから、兄貴につられて笑ってたな。
誕生日祝いってことで家で嫁がご馳走を作って待っててくれたから、いつもはじゃじゃ馬でやかましい俺様の娘二人もこの時ばかりは大人しかったぜ。
アズーランは巫女の姉貴の後ろで親父に抱っこされてたけど、少しぐずっていたなア。孫が可愛いからってひげ面をなすりつけるのが悪いんだ。
それが俺様達の平和な毎日のお終いだったなんて、誰1人思いもしなかっただろうぜ。
――巫女の姉貴がいきなり悲鳴を上げた。
「世界樹様!?何がやってくるのですか!?『今すぐに逃げよ』だなんて、何が……!?」
俺様達は驚いて思わず世界樹様を見上げた。
……血の気が引いたぜ。
世界樹様の青々とした葉が次々と腐った色に染まってしおれていく。
俺様達の上に枯れた葉が雨のように降り注いでくる。
周辺の空気も一変した。
世界樹様の近くの空気はいつも清らかで温かいのに、今や腐臭が漂い、肌に突き刺さるようだ。
「――武器を持て!女子供を避難させろ!急げ!」
親父の張り詰めた声が響いた。
俺様達は女や子供を避難所に押し込め、武器を手に身構えた。
忘れもしない、その瞬間さ。
世界樹様の幹が凄まじい音と振動と一緒にたたき折られて、上から降ってきたんだ。
何人か巻き込まれて下敷きになって死んだ。
その阿鼻叫喚のまっ最中で、邪神が俺様達の前に現れた。
『クソ女神共……どこまでも俺を拒むのかよ。俺はこんなにも愛しているのに。ふざけるなよ、女の分際で。全部ぶち壊してやる、俺を袖にしたことを永遠に後悔させてやる。しっかりと分からせてやるよ、泣きながら見ていろよ!』
邪神の間近にいたヤツが体中を掻きむしって嘔吐して、目が飛び出て絶命した。
魔物がまとっているのを見たことはある。
瘴気だ。
だが俺様達を一瞬で絶命させるほど濃い瘴気なんて初めてだった。
『まずは……世界樹、だったか?』
その言葉を聞いた瞬間に親父が先陣を切って襲いかかった。
俺様達の義務を果たすため、使命を全うするため、最上に大事なものを守るために。
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