番外編 兄を手にかけた弟・①
俺様には、兄貴がいた。
一番上が巫女の姉貴、真ん中がフェルナンの兄貴、末が俺様だって訳だ。
俺様の家は、親父も、祖父も、曾祖父も、その前もその前も、代々、魔王を務めていた。
俺様はとにかく頑丈だったが、兄貴は本当に体が弱かった。若くして亡くなったお袋そっくりだったんだ。
元気に歩ける日より熱を出して寝ている日の方がほとんどでよ。
だがよ、自慢の兄貴だったぜ、俺様にとっては。
ガキの頃、喧嘩で負けて泣きながら帰ってきた時、いつも親父とお袋と巫女の姉貴には『やり返してこい!』ってどやされたけれど、兄貴だけは泣きじゃくる俺様をなだめて落ち着かせてくれて、暴力は良くないって辛抱強く諭して、最後には仲直りまで手伝ってくれてよ。
ああ、大好きだったよ。
でも殺した。俺様が。
俺様達、魔族にとって世界樹様は何よりも尊い存在だ。
世界樹様はこの世界中の草木の王であらせられて、『末の女神』様へ死者の魂を導く『道標』なのだ。もし死者の魂がこの世界の中で迷ってしまえば、いずれ魔物に身をやつし、色々と害をなすようになってしまう。
世界樹様に何かがあったら、この世界が魔物であふれかえるんだ。
俺様達は世界樹様を守るため、ニンゲンの住むところから遙かに遠い『聖なる緑の園』に幾重も結界を張り続け、代々、巫女は世界樹様の声を聞いて魔王に伝え、そのお世話を努めていた。
それが魔族にとっての最大の義務で、最上の使命だったからな。
ああ、たまに戦えるヤツが外に出て魔物を狩って、もう一度死者の魂が『末の女神』様の御許へ行けるようにしていた、それくらいだぜ。
……聖なる緑の園への侵入者ってのが、たまに出てきやがるんだ。
そのほとんどが世界樹様を我が物にしようとする下らねえニンゲン共さ。
『世界樹様の葉を口にすれば魔族のように不老不死になる』だア?
『魔族のように凄まじい魔法が扱えるようになる』だア?
そんな訳がねえだろがア!
世界樹様の葉には確かに優れた薬効がある、だが不老不死の薬じゃねえ。
そもそも俺様達、魔族だって不死じゃねえよ。お袋は事実、体が弱くて死んじまった。
ただニンゲンとは姿が違って、少しばかり長生きなだけだ。
俺様達にも寿命はあるんだよ。
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