番外編 兄を手にかけた弟・③

 ……戦えるヤツは俺様も含めてズタボロになってよ、親父なんか内臓をこぼして死にかけてた。俺様も動かせるのは目玉だけって有様だった。でも誰1人、回復魔法を使えるだけの魔力さえ無くて、そのままくたばりそうになっていたんだ。


 それでも、ようやく邪神が倒れたと、倒せたと、思ったんだ。

「父さん、ドミニク……みんなも!」

避難所に真っ先に押し込めていたはずの兄貴が杖を突いてやって来て、下手くそな回復魔法をかけてくれた。それでどうにか俺様達は一命を取り留めた。


 でもよ、絶望ってのは希望が見えたと思った時に襲ってくるんだなア。


 『神を殺せるのは神だけだ!愚かな下等生物め』

邪神が勢いそのままに復活したんだよ。

見せしめと言わんばかりに、俺様の目の前で親父をあっさりと踏み殺してさ。

『そうだな……ひと思いに皆殺しにしてやっても良いが……』

悪意と憎悪と汚物を煮詰めたような目が兄貴を捕まえた。

『おい、貴様』

「……僕ですか」

兄貴は妙に落ち着いてた。

『そうだ。貴様は同胞を助けたくはないのか?』

「……」

『三日間だ。三日間、貴様が瘴気の中で生きていれば、皆殺しは止めてやる』

「……。分かりました」

冗談じゃねえよ。

兄貴はただでさえ体が弱いんだぜ?

あんな濃い瘴気の中で三日間なんて無理だ、絶対に死んじまう。

「役立たずの僕に、今まで良くしてくれてありがとう」

役立たずなんかじゃねえ!

兄貴は俺様の大事な家族だぞ!?

自慢の兄貴なんだぞ!?

止めろ!

逃げろ、逃げてくれ!


 喉笛を切り裂かれていた俺様は、声が出せなくて、兄貴が寂しそうに笑った顔を見つめることしか出来なかった。

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