第33話 暴かれる罪状・③
さて、次はイルバス男爵一家だ。
別の牢にまとめて閉じ込めてある。
「お願いよ、助けて!私の息子でしょう!?」
真っ先に懇願してきたのは……そういや、この女の名前って何だったっけ?
俺を産んでくれたことには感謝するけれどさ、名前さえ覚えていないのに息子とか言われても。
「俺の親父の墓の在処を答えろよ。正答したら減刑しても良いぞ」
あーあ……黙っちゃった。
代わりにジドールが哀願してくる。
「なあ兄さん!こんなことはもう止めてくれよ!」
「あー……」
「な、僕達は兄弟だろ!?こんなのは間違っている!」
「俺もそう訴えたなあ……お前らに寄ってたかって侮辱された時に、泣きながら、何十回も」
ジドールの顔色が変わったけれど、安心しろよ。
お前と、後ろにいるユーファニアには、これからずっと償って貰うだけだから。
俺は、『俺にされたこと』はあんまり気にならないんだ。
「イルバス元男爵と元男爵夫人、きちんと答えてくれ。親父……いや、ロベルトの殺害は二人の指図なのか?」
俺の背後でエレーナ嬢が微笑んでいる。
それだけで俺はどこまでも強かになれるし、もう何者の視線をも恐れず真っ直ぐに前を向いていられる。
「違う、国王陛下から命令があったんだ!」
「そうよ、仕方がなかったのよ!」
「だろうよ。で、どうやって殺させた?」
「オリガとの関係を清算したいから話し合ってくれと密かに手紙を……そして王家から派遣された3人がかりで、テテ河に放り込ませて……」
そういや、この女はそんな名前だったっけ。
「オリガと貴方がどう言う関係だって?」
俺が深く穿つと、イルバス元男爵は慌て始めた。
「その……いや……悪気は……!」
悪気、ねえ。
「ふざけないで!悪気じゃないわ、本当に愛し合っていたのよ!!!」
女が喚くように怒鳴った。
「あんな貧乏暮らしなんて嫌だったの!第一、薄汚い豚みたいな男の相手なんて二度と嫌だったわ!どうして真実の愛に生きてはいけないのよ!?私はもっと幸せな生き方を選んだだけなのよ!何も責められるいわれは無いわ!」
『なあヴィクトル、どうかみんなを頼む。母さんだって悪い人じゃないんだ、だから……』
なあ親父。
『悪い』人ではなくても『醜い』人はいるんだよ、いくらでも。
俺もそうだから、分かるんだよ。
親父にされたことの恨みだけは、いつまでも許せそうにない。
「ああ、俺は責めない」
俺が薄笑いを浮かべたのを勘違いしたらしい一家は、安堵したような顔で見上げてきた。
すぐさま俺は呼んだ。
「マクラーンさん、アリサさん。待たせてごめん。もうこの二人は好きにして良い。ただし殺したらダメだ、そこの加減だけは気をつけてくれ」
「「!!!」」
イルバス元男爵達がワナワナと震えだしたのは、真っ赤に焼けた火かき棒を握りしめたマクラーンさんと、頑丈な金属製のハサミを持ったアリサさんがやって来たからだ。
「私とアリサがイルバス男爵領から命からがら逃げた時を思い出しますな」マクラーンさんはその火かき棒とイルバス元男爵を交互に見つめて笑った。「旦那様だけが私共を助けて下さったっけ……。ああ、イルバス男爵領にいた時に、貴様は何度もこれで私共の背中を叩いたな?あれほどに貴様の大好きだったこれを、わざわざ持ってきてやったのだよ」
アリサさんは女を見据えて、ジョキジョキとこれ見よがしにハサミを動かした。
「兄さん、生ぬるいわよ。旦那様の忘れ形見である坊ちゃまに十何年もこの二人が何をしてきたのか、私達が誰よりも知っているでしょう。
この二人の口が開けば坊ちゃまは傷つき、視線が向かえば坊ちゃまは蔑まれて来たのよ。
だからこの二人の口と目だけは……二度と、二度と坊ちゃまに向かわないようにしなければいけないのだわ」
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