第32話 暴かれる罪状・②

 「貴様!よくも私の娘をたぶらかしたな!」

 「よくも!この裏切り者!」

 「『地味豚公爵』の分際で……!」

パルベッヘル公爵一家は俺とエレーナ嬢が姿を見せた瞬間に吠え始めたが、サマンサさんとミアナさんまでエレーナ嬢の背後にいたから絶句してしまった。


 ……ずっと気になってはいたんだ。

 王都から出たら、いきなり彼女は表情豊かになった。

 家族に向けて書いた手紙の内容が事務的だった。

 何なら書いている現場を俺が見ていても嫌がるそぶりさえ無かった。

 家族や友達を恋しがることも一度も無かった。

 俺の前で家族のはずのコイツらを『あの人達』と呼んだ。

 コイツらの処刑の話の時にも忌避するどころか食いついてきた。


 いや、俺はもっと先にエレーナ嬢の過去に気付くべきだったんだ。

大貴族の箱入り娘がさ、貴族の令嬢という生き方に全く執着していなかった、何なら俺の計画に反対どころか諸手を挙げて大賛成した時に。


 ……パルベッヘル公爵一家のどす黒い噂は全部……全部が事実だったと。



 「どうして……貴様らまで」

 「あれほど目をかけてやったのに……」

 「まさかお前達まで裏切っていたのか……」


 サマンサさんとミアナさんは低い声で言った。

「……本当はずっと嫌でしたよ。元旦那様や若旦那様の夜のお世話をさせられたことも、奥様の機嫌一つで背中に当てられた焼き鏝の痛みに怯え続けたのも、全部」

「パルベッヘル公爵の館にいた召使いは、生きているはずなのに心が先に死んでいきました。心が死なない召使いは……ウルリカさんのようにいつしか行方不明になりましたから」

「そう言えば、旦那様と奥様は、逃げだそうとしたウルリカさんにも何度も『身の程』を教えていらっしゃいましたね」

「そう言えば、若旦那様のご趣味は『狩猟』でしたね。いつも獲物は二本足だったと伺っております」

……。

『気持ち悪い』を通り越して、あの邪神がここに3匹もいるんじゃないかと俺は思った。

この地下牢に、娘のいるドミニクとグレイグとクードがいないことと(※色々と事後処理を任せている)、ワードルス村にパルベッヘル公爵の別荘が無かったことに感謝だ。

「借金の形に売られた時……私達は未成年でしたのに、お二人はそれがいいとおっしゃって。案の定16を越えたら見向きもされず」

「お嬢様だけです」

「私達のために泣いて下さって、可能な限りに庇って下さったのは」

一瞬、二人は口を閉ざしたが、ゆっくりと微笑んだのが気配で分かった。

「それでもいい、それでも私達を愛しているといくら断っても諦めてくれない人と、今度こそ幸せになりたいのです」

「ウルリカさんと違って命がある分、とても慈悲深いでしょう?」

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