第29話 ざまぁまでのカウントダウン・③

 再来月に王都にドミニク達も連れて行って良いかと打診したら、大歓迎だったことをみんなに伝えた。

王宮の迎賓館に滞在させてくれて滞在費も全て王家で持つという。

魔石や魔道器、魔獣から取れる貴重な薬の材料、他にも魔族しか取り扱えない貴重な品々が欲しくてたまらないのだろう。

今や魔族と関わるということはダイヤモンドの鉱脈よりも価値のある資源を手に入れたことと同義なのだから。


 ――つまり、だ。

王家が俺を王都に呼び出してから暗殺して、俺の持つ権利と権益を奪い取ってもおかしくはないし、貴族なんかは言わずもがなだろ。

特に、オールー公爵領と王都の旧街道の間の土地を支配していて、必要性もないのに関所をいくつも作り、通行税で儲けまくっていたのに……もう今月からは誰も通らなくなったイルバス男爵家にとって、俺は最大の怨敵になった。

「多分と言うか確実に、王都にいる貴族と王族の全員が俺を殺しに来ると思うんだよね」

毒かナイフか縄か……事故に見えるように窓か階段から突き落とされるかもしれない。

「テメエを殺したら俺達は王都にいる全員をブチ殺すぜ!」

ドミニク、それはダメだって。

「話をちょっと変えるけれど、俺も王位継承権を一応は持っていることは知っている?」

エレーナ嬢がすぐさま頷いた。

「ええ、先のオールー公爵閣下は元王太子であらせられましたね。ただ……」

「うん、弟(今の国王である)との政争に敗れて、跡取りさえ逃げ出したオールー公爵家に払い下げられた。そしてほとぼりが冷めた頃に水難事故に見せかけて……」

「「!!!」」

「……親父が亡くなった日に俺は見たんだよ」

オールー公爵領に相応しくない黒い外套を着た身なりの良い男達が、親父の後を追ってテテ河の方へ向かったのを。

王家の紋がついた馬車がそのすぐ後で走り去って行ったことも。


 ……何となく胸騒ぎはしたんだ。

でも、あの時、3つだった俺には思いも寄らなかった。

恐らく……イルバス男爵家やあの女も関与していたんだろう。

「母親だった女に、変な男達が父の後を追っかけていったって相談したら、黙ってにんまりと笑ったんだ」


 「旦那様が……そんな……!」

「よくも……よくも!」 

マクラーンさんとアリサさんは震えながら泣いている。

あのドミニクが良く耐えていると思ったら、逆にマオンが激高していた。

「魔族よりもおぞましい人間共がいただなんて!」

ジョフロワも魔族に殺されたから、マオンが魔族を嫌いなのは仕方ない。

同じ部屋にいるのにあからさまな敵意を向けないだけ、よく頑張ってくれているのだ。

「俺も人間だからさ、そこは仕方ない。……と言うか、あの時からずっと『俺だけなら』別に良かったんだ」

でも、もう俺が俺を侮辱することは出来ない。

俺を応援して支持してくれているみんなまで侮辱するのは何があろうと認めない。

「それで、割と良くある話だけれど、国王を交代させるクーデターを起こそうかと思ってて」

「あら、邪魔者は皆殺しにして閣下が国王になりませんの?」

……あの、その。

残念そうに凄く怖いことを言わないで、エレーナ嬢。

「既にオールー公爵家の方が金持ちなのに、赤字まみれの王国の国王なんかなっても仕方ないよ」

俺はイルバス男爵家を義絶させるためという名目で、これまで王国や貴族の要所要所に手紙を送っていたが、同時にもう一つ……隠れて根回しもしていたことも明かした。

元々は暗殺を回避したかったからだけど、今からでもクーデターの方面に転用できる。

金と力を持たない国王に旨味を感じていなかった連中を、密かに俺の方へと絡め取っていた。

国王の権威や威信ってのは、少なくとも財力と武力がその背後に無いと、何の魅力も無いのだ。

「今の王太子が国王に即位したら、俺が大統領として全権を握る所まで固められそうなんだ」


 魔道器で生まれる権利と権益でいくらでも贅沢をして下さい。

 政治は面倒でしょうから俺がやっておきます。


 ……まさか王太子も王太子妃もこんな甘い餌に簡単に釣られて、権力をあっさりと手放すつもりだとは思っていなかった。


 国王、息子の教育を間違ったな……。

しかもまだ俺のクーデター計画(元・暗殺回避計画)に気づいていないとか、それで国王が良く務まっているな?

 愛妾をあれだけ抱え込んで、贅沢しかしない王妃と一緒に国家の財政を傾かせているだけはあるよ……。


 ……知っているよ。

 親父が優しすぎたんだよ。

 異母とは言え実の弟と争うくらいなら、って何もかもこらえて身を引いたんだよ。


 なのに、貴様らは親父の忍耐も優しささえも土足で踏みにじった。

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