第28話 ざまぁまでのカウントダウン・②

 王都への新しい道を作る。一定の距離ごとに、目印として木陰を作ってくれる木を植え、元々あった狭い道を均して広げたり、荷馬車がすれ違えるほどの大きな道を新たに作る。農閑期かつ雨がほとんど降らない乾期に入っていたのが助かって、半月で出来てしまった。

雨季の間でもぬかるみが酷くならないように、石やレンガ等を敷き詰めた中々に素晴らしい道である。作ったのは道だけじゃない、通り過ぎる街や村ごとに駅舎を作り、休憩所や厩も併設してある。

確実にこれまでの道より素晴らしいだろうという自負があった。

 これまでは王都と行き来するには三日はかかった(あちこちをぐねぐねと経由する上に関所が多かった)が、この王都直通の道が出来た後は歩いて一日半、早馬を飛ばせば半日もかからなくなった。

商人達が大喜びで、その道を争うようにして使う。

自然と王都からも今まで以上に人が来るようになって、そうなると王都の最新の噂や情報も続々と入ってきた。


 『耳の早い貴族達は魔族にも興味を持っているらしい』

 『魔道器絡みの利権に貴族達だけでなく王家も目の色を変えているそうだ』

 『陛下はオールー公爵領への課税を減免する代わりに利権を譲って貰おうと躍起になっている』

 『せめて魔石だけでも譲って貰えないかと画策しているようだ』

 『王宮に魔王を呼び出して話をしたいらしい』


 「ぶっちゃけても良いだろうか」

ドミニク、アズーラン、マオン、グレイグ、クード、マクラーンさんにアリサさん、そしてエレーナ嬢を集めた前で、俺は切り出した。

「ドミニク達が望むなら、王都にいる連中と直接取引してくれて全然構わない。もうオールー公爵領は魔道器だけに頼らなくても安定的にやっていけるようになった」

次の瞬間には俺は胸ぐらを掴まれてガクガクと前後に揺さぶられている。

目の前には激怒のあまりに髪の毛が文字通り逆立っているドミニクがいて、アズーランとグレイグとクードが止めようとしてくれているのに効いていない。

うん、コイツは本当に魔王だなあ、なんて俺は暢気に思った。

「俺様達はテメエとしか取引しねえ!だよなア!?――アズーラン!?」

「僕もそのつもりでしたよ、親父殿」

「でも俺はたかが田舎の領主だから」

「ガアアアアアアアアアアアアアアア――――――!!!!!」

ドミニクは凄い声で吠えて俺を突き飛ばす、ひとたまりもなく吹っ飛びかけたところをアズーランがすかさず受け止めてくれた。

「あ、ありがとう」

アズーランは渋い顔をしていた。

「閣下が全面的に悪いです」

えっ。

助けを求めるようにエレーナ嬢を見たら、冷たい目で俺を見ていた。

「謙遜は美徳ですけれども、閣下のそれはただの己への侮辱ですわよ」

俺の背筋が冷えていくのを実感した。

「ドミニク殿は閣下を家族同然に思っていらっしゃるのに、その家族を誰かに侮辱されて一瞬でも黙っているはずもないでしょう?」

「あっ、うっ、あっ」

「たとえ侮辱したのが家族本人であろうと、同じですわ。

言われ無き侮辱に対して激怒なさるドミニク殿が正しいのです。

閣下がご自身を卑下する度、ここにいる全員含めオールー公爵領にいる全ての民をも卑下してきたのです。

今までお気づきで無かったのですか」


 ……考えたことが無かった。

まさか俺が俺を『地味豚公爵だから』って思ったり口にする度に、みんなまで貶めていたのか。

「……」

俺の本当の意味での『覚悟』が決まったのはこの瞬間だったのかも知れない。


 そうだ。

 ずっと、そうだった。

 俺がこのオールー公爵領の領主なのだ。

 これまでも。

 これからも。


 「ありがとう」

 俺の背中の後ろにはみんながいる。

 退路なんて、初めからある訳がなかった。


「うふふ」エレーナ嬢は輝くように微笑んだ。「それでこそ『英明公』ですわ」


 あ、俺のことだったの。

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