第27話 ざまぁまでのカウントダウン・①

 秋が来た。来年が飢饉でもオールー公爵領の全員を飢えさせないほどの大豊作だった。

そして、一通りの農作業が終わって迎えた収穫祭の日。

この日だけはみんなで楽しむための日で、無礼講になっていて、平民のみんなは徹夜で仮面をかぶってたき火を囲んで踊り、村や街の長全員と俺は一緒に美味しい酒や食べ物をみんなに手ずから振る舞う。毎年、場所の奪い合いになるくらいにぎっしりと屋台が道という道に並んでいる。真夜中でも人混みが凄い。

子供に至るまで、夜明けまで歌って踊って食べて飲んで、この1年の間の苦労をねぎらい、今年の豊作に感謝するのだ。

恋人同士はイチャイチャしながら、家族連れだったらはしゃぎまわる子供に苦労しながら。1人者でも友達とだべったり、踊ったり、肩を組んで歌ったり。


 今年も顔なじみの旅回りの芸人一座『アルルカン』が来てくれて、広場に作った舞台の上で色々な芸を披露してくれた。

見所は団長のノワールの手品と、踊り子のオランジェの素晴らしい舞いだ。

みんなが大歓声をあげるし、おひねりの雨が降り注ぐので、彼らも喜んで毎年来てくれる。

「ヴィクトル卿、この手紙をパルベッヘル公爵から預かりましたよ」

ノワール達は基本的に王都を中心に回っていて、貴族の要望に応じて夜会の出し物も演出するので、顔なじみだとは聞いていた。

「それと、エレーナ嬢の様子はどうだと探ってくるようにと命じられましたが」

ニヤッと笑ってノワールは特等席でオランジェの舞に拍手しているエレーナ嬢に視線をやって、

「とても楽しそうでしたと報告しておきます」

「良いの?」

「……閣下は娘(オランジェが足の病気になった時に医者を手配しただけ)の命の恩人です。それに完全な事実を述べるまでですから、何の後ろめたいことはありません」

「う、うん」

「そう言えば。……閣下はご存じでしょうか?」

「何を?」

「最近、王都では『英明公』という貴族が評判なのですよ」

「へえ、イケメンで出来る男なんだろうなあ」

ノワールが目を剥いた。

「ご存じないのですか」

「ごめん、ちょっと別件でゴタゴタしていて」

活版印刷の試運転と、安価な紙の大量製造に成功して、今はレナリアさん達に頼んで『教科書』の原本を作って貰っているのだ。

上手く行けば、古紙の再利用についても考える必要が出てくる。

他にも……色々とやらなきゃいけない予定が詰まっていてさ。

「全く、そういう所が……閣下らしいと言うか……」

ノワールが呆れたように呟いたが、よく聞き取れなかった。

「ん?」

「いえ、何でも。それで、そのお手紙ですが……返答如何に関わらず、エレーナ嬢を連れて王都へ来るようにとパルベッヘル公爵からきつく申し渡されました」

「いや、良いよ。丁度、再来月には王都に行かなきゃいけない用事があったからさ」

ノワールはほっとしたように軽く頷いた。


 『再来月にイルバス男爵をオールー公爵家から義絶するに当たり、王宮の法務院に出廷して事情を説明することを貴殿に要求する。イルバス男爵も同法廷に召喚し申し開きをさせる。予定調和と言えど、必要な儀礼である。

 エレーナの顔を見たい。必ず連れてくるように』


俺はエレーナ嬢やみんなと話し合って、連中との悪縁を終わらせるために王都へ一緒に向かうことにした。

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