第25話 地味豚公爵をプロデュース・②
雨季が明けてみんなが一斉に働き出す。
力のある人は男女構わずに我先に地面を耕して種を巻いたり、畝を作って苗を植えるのだ。子供でさえ出来ることをやるくらい人手が足りない。
もう鶏が鳴く前から日暮れまで大忙し、ただ今となってはその苦労は幸いなことに実を結んでくれている。
見るからに豊かな大地がテテ河の向こう岸の遙か遠くまで平らに広がっていた。
雨上がりなのもあって空気が澄んでいて空の青さが冴え渡っていて、とても爽やかな気分だ。
俺も例年のように状況の視察に行く。
と言っても馬や馬車で行くんじゃない、お昼前にオールーンの街に残っている人が手分けして作った弁当を農作業をしてくれている人へ運ぶため、荷馬車の御者台に乗っていく。
【保冷保温水筒】と【温め機能付き保冷弁当】が大活躍するのだ。
だってその方が効率的だろ?
ああ、一応、護衛としてアズーランも連れて行っている。
アズーランと会うのもほぼ一月ぶりかー、ほとんど執務室とエレーナ嬢の邸宅にこもって磨かれていたからなー、最終的にはマクラーンさんやアリサさんも加わってくれて楽しかったなー、なんて暢気に思い出しながら、俺は几帳面に重鎧を着ている後ろ姿に声をかけた。
これからぐっと暑くなるから無理に鎧を着なくても良いように決まっているけれど、魔族は体力があるみたいで真夏でも平然と重鎧を着用している。
「久しぶり。元気にしていたか?」
「お久しぶりです、閣下……え?」
アズーランが困惑した顔を向けてきたが、すぐにその顔も晴れた。
「見違えるほどにお元気そうで何よりです!」
「あはは。エレーナ嬢のおかげだよ」
「サマンサ嬢の言った以上に素晴らしい方だったのですね」
「討論が出来るんだ。お互いの意見を真正面からぶつけ合って折衝するのが凄く楽しくて。王国一の美女云々の前に、心底から尊敬しているし唯一無二の人だと思う」
「ええと、失礼ですが……その、恋愛的な進捗は……?」
「ああ、パルベッヘル公爵達に婚約の時によく言い含められたんだよ、俺からエレーナ嬢の手を握ったら殺すって……」
握りたい。あの美しい文字を書いている白くて綺麗な指をそっと握ってみたい。
きっと温かくて柔らかいんだろうな。
側にいてくれるだけで凄く良い匂いがするんだ……(女性からしたら気持ち悪いと思われるだろうから黙っているけど)。
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