第22話 地味豚公爵のやらかしたこと・①
いよいよ雨季が始まったようで、昨日から雨が続いている。
俺が彼女のために建てて貰った近所の邸宅の門前に行くと、警邏中の副騎士団長のアズーランが雨宿りをしながらメイドのサマンサさんと仲よさそうに話していた。
「ああ、閣下!」
アズーランはドミニクの末の息子(110才、イケメン)である。
ドミニクはああ見えて既婚者で、しかも姉のデリアさんの親友を嫁に貰った所為で、姉にも嫁にも完全に逆らえないのだ。
おまけにアズーラン以外、娘っていう。
グレイグとクードの所も娘だから、酒を一緒に飲めばこの3人は間違いなく意気投合すると思うんだけれど……。
俺が仲良くなれって言うのもおかしいから黙っている。
ああ、何で魔族のアズーランが副騎士団長をやっているのかというと、一番人間っぽい容姿をしているからだ。
肌は少し褐色がかっているけれど、しっかり日焼けしたんだな、程度だし、翼も角も生えていないし、牙も鋭い爪もない。
よくよく見れば瞳の形が少し違うけれども、他はただの爽やかな好青年である。
魔族はもう無害だという広報係をやるために、人質という体で俺が預かっているのである。
実際は人質とかじゃなくて、真面目に働いてくれている大事な騎士団員の1人だ。
ドミニクの息子とは思えないくらい冷静な性格をしているから、グレイグの補佐にぴったりだし。
グレイグ達も冷静で真面目なアズーランは信頼しているようだ。
「エレーナ嬢にお目にかかりたいのだけれど、お時間はあるだろうか?」
サマンサさんに訊いてみた。
「今はイヤン商会の番頭(マオンである)とお話しになっていますよ」
あれ、ずいぶんとサマンサさんの俺を見る視線が優しくなっている……?
「じゃあ少し……ここで待っても良いだろうか」
「それはお断り致します」
えっ。
「どうぞ客間でお待ち下さい」
俺は1人で玄関へ向かった。
後ろではアズーランとサマンサさんの会話が続いている。
「そう、そんなことが……私達は何も知らなかったわ」
「いきなり魔王である親父殿が王都に出向いたら……更なる誤解を招くだけでしたから。これでも僕がここに最初に来た時よりは比べられないほどに良くなったのです」
「そうだったのね……」
ああ、そうか、俺は2人の世界を邪魔しちゃったのか。
そそくさと歩いて、いざ玄関を開けようとした時、俺はその向こうから聞こえてきた声に目を見張った。
驚きつつも、雨に濡れないように慌てて軒下に逃げ込む。
「……美しい貴女に再会できて良かった」
マオン!?
「そんな、美しいなんて……もう年なのに……」
「パルベッヘル公爵令嬢に忠実に仕えている貴女が美しくないと?」
「でも……エレーナ様ほどじゃ……」
「いいえ、僕の目には貴女が何より美しく見えるのです。それとも僕のこの目が嘘を言っているとでも……?」
俺もドミニクのように『テメエ!』と口に出して言いそうになった。
マオン……前々から色々とこじらせているとも思っていたが、まさか本物の年上好きだったのかよ!
イヤン商会を女だてらに頭取として取り仕切っている義姉のナナオンさんにベタ惚れだった癖に……。
ジョフロワが生きていた頃から、ずっと憧れと思慕の目で見ていたのは知っているんだからな!
あのな、ミアナさんはお前より7つは年上だぞ!あっ……ナナオンさんはマオンの10は年上だったか……。むしろマオンにとっては最高のど真ん中なのかもな……。
「っ……そ、そんなことは……」
「……。どうか許して下さい、貴女を苦しめてしまった。……僕は何度でも来ますから……」
そして玄関が開いてマオンが出てくる。
「閣下、盗み聞きとは本当に良いご趣味ですね」
俺がいることに気付いていてあの台詞を言ったのかよ!
「……年上が好きなのか?」
「それが何か?」
堂々と肯定するな!
でも別にいいか……。
「いや、もう何も言わない。ええと、エレーナ嬢は……?」
「丁度、閣下を呼んできて欲しいと頼まれたところです」
「えっ」
「早く行って差し上げて下さい」
「あ、ああ、うん」
俺は玄関を開けた。
やけに生き生きとしたミアナさんが客間に案内してくれて、すぐにエレーナ嬢がやって来た。
「良かった、閣下をお呼びしようとしていた所でしたの」
うう、天使。何となく重たくて憂鬱な雨の日も、輝かしい天使。
こんなに美しい人がいるなんて……。
サマンサさんもすぐに来てくれて、お茶を出してくれた。
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