第20話 貴女がいれば全てが敵になっても構わない・②

 覚えていなさいよ!とユーファニアに言われたから一応覚えていた。

でも義絶予定のササーニア家の連中を覚えていたのは、とっとと王都で義絶の手続きをするためだった。

普通、こう言う義絶とか絶縁の手続きは貴族や王宮への用意周到な根回しが必要なのだけれども、今の俺がほんの少し――新しく開発した魔道器の利権や独占権をちらつかせるだけであっさりと完了した。

そりゃあそうだろう、俺が彼らでも我先に飛びつきたい。


 まだ魔道器が浸透しているのは貴族に代表される富裕層くらいだけれども、『信じられないくらいに生活が便利になった』『素晴らしいものだ』『助かった』という感想しか出てこないのだ。

値段さえ安くすれば平民にもどれほど売れるか。


 『誰でも使いやすい魔道器』ばかりをマオン達に王都に向けて売って貰ったという思惑が上手く行った。

試作中の活版印刷みたいな、使う方にも一定の知識や技能が必要な魔道器はオールー公爵領で独占することにして、それで新しい雇用を生みたかったから。


 俺は何度も要所への手紙やら金品やらを送りながら、その魔道器が魔族の協力あって生まれたものでオールー公爵領でしか現状は生産できないこと、ササーニア家は魔道器の利権を何も握っていないこと、嘘だと思うなら王都に出入りする商人達に訊ねてみればいい、実際はササーニア家はオールー公爵領で魔道器の生産を妨げる行動ばかりしている、とさりげなく嘘と事実を情報を混ぜた。


 実際は、ササーニア家は邪魔『ばかり』はしていない。

 邪魔なことが『ほとんどだ』と言うだけだ。


 嘘は一滴だけ真実に混ぜ込むことで恐ろしい効能を発揮する。



 それらの手紙を届けて貰っていたマオンから王家御用達のラザザ商会(イヤン商会にとっては目の上のたんこぶである)に魔道器の利権を誰が握っているかについてありのまま話して良いか、とすぐに連絡が来た。

手紙を届けるついでにまた王都で商売をしていたのだろう。

「あ、いいよ。俺が全部握っているって率直に言っちゃって良い」

『婚約者を寝取ったクソバカ男爵のボンボン息子へ今度こそ徹底的に思い知らせるおつもりで?』

遠音機の向こうにはマオンしかいないらしい。王都の人間がいる所で、『クソバカ男爵のボンボン息子』は流石にまずい。

不敬罪なんてバカバカしい癖にやたらと頑固な法律があるからだ。

「うーん……テテ河の上流にはげ山を作らなかったら……エレーナ嬢を侮辱しなかったら、ここまでやるつもりは無かったかな」

『甘い。本当に閣下は甘すぎる。何の利益にもなりません。駄菓子に蜂蜜をかけたよりも甘すぎて僕は吐きそうです』

よく分かっているけれど……本当に毒舌だなあ。

『大体、パルベッヘル公爵令嬢相手に「愛人の1人にしてやる」等と腐った発言をしたのですから、そのまま裁判の必要なくクソバカ男爵一家もろとも極刑で宜しいのです』

「いや、それがさ、エレーナ嬢がすっごく美しい笑顔で2人を拷問していて……心底から俺は感激したというか彼女に完全に惚れてしまったというか、きっとこれは恋愛じゃなくて運命なんだって、もし運命じゃなかったら何が何でも運命にしたいと願うくらいに、」

あんなに美しくて強い人は初めて見たんだ。

『惚気を聞いてもよろしいですが今から有料です。時は金になりますので』

「ごめん」

『ちなみにパルベッヘル公爵令嬢は気前よく支払って下さいました』

「えっ、あっ」

『ちなみに5年前からパルベッヘル公爵令嬢はイヤン商会の上得意のお一人となっております』

「……えっ?」

『ではまた』

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