第17話 無力だった過去・②

 「たかが騎士の癖にこの僕になんて無礼を!処刑してやるぞ!」

「邪魔よ!退きなさい!」

ヤツらの声を聞いたら、変な汗が出てきた。

……俺はずっとジドール達に虐められていた。

先のオールー公爵だった父が俺が3つの時に死んだのに、その葬儀さえ出ずに母は俺を捨てた。

母はとびきりの美人だったし、貧乏そのものだったオールー公爵家に我慢がならなかったから浮気をしていたのだ。それも一応は分家にあたるササーニア家の当主ゼファンと……俺が生まれたすぐ後から。

確かにササーニア家は金持ちだったし、ゼファンは独身でイケメンだった。

父は何度も頭を下げて借金を頼んでいたけれど、ずっと鬱陶しそうに断っていたっけ。

……その父が亡くなって葬儀さえ上げる費用が出なくて困っていたのに、母は。


 「ああ嫌だ。どうしてこんな豚みたいな子供が生まれたのかしら。私はもっと幸せな生き方を選ぶわ」


 結局、葬儀は上げられなくて、棺を用意して共同墓地に埋めるだけでまた借金が増えた。

葬儀が終わった後、俺やアリサさんやマクラーンさんが雨季の土砂降りの中を館に戻ったら、館の中ががらんどうだった。

母やゼファン達が家財道具を持ち出して、葬儀(……だと思いたい)の最中に売っていたのだ。

本がたまたま売られなかったのは運良く土砂降りで、外に持ち出したら濡れて台無しになるから、だけだったのだろう。


 怒りと屈辱に震えるアリサさんやマクラーンさんを俺がなだめる羽目になった。

「とりあえずのこっているものをみつけよう!」

3才にしては……まともな判断じゃないかな。

残っていたのは使い古しの調理器具と安価な木の食器、重すぎて持ち出せなかった仕事机くらい。

食料や薪は少し残っていた。

で、これ見よがしにイルバス男爵領に『オールー公爵本邸』が建てられた、と言う訳だ。

今もオールーンの街にある『別邸』は、元々は『本邸』だ。

で、俺が生活魔法を駆使して一生懸命生きて延びている間、ゼファンや母……すぐに異父弟のジドールが加わって俺を『地味豚公爵』って虐げて遊んでいた。


 事あるごとにイルバス男爵領に呼び出して、散々にみすぼらしい俺を嘲った。

『人の服を着た豚みたいだ』

『嫌だ、臭いわ』

『おかねがほしいんだろ?ほら、ブーブーないてみろよ!』


 俺が人の目が怖いのは、あの冷たい眼差しが今でも忘れられないからだ。

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