第14話 本の形をした禁断の果実・①
「閣下、まずはご婚約おめでとうございます。パルベッヘル公爵令嬢もご機嫌麗しく、どうかお二人の末永くつつがなきことを女神様にお祈り申し上げます」
レナリアさん達は心から祝福してくれたけれど、俺から手を繋いだら暗殺です……とは言えない。
「あ、ありがとう。それで、その……」
「はい、こちらが生徒や我々教師からの要望をまとめた提案書でございます」
レナリアさんは分厚い提案書を渡してくれたので、【防水鞄】に俺は仕舞った。
「やはり一番の要望は……『本』でした」
レナリアさんは少し落ち込んだ様子で言う。
「ああ……。でも高いんだよな……装丁とか挿絵とか、専門の職人がいるくらいだし……何より、原本を見ながら写さないといけないし……紙も高いし……」
本。
俺も読書は大好きである。
でも、本は財産家のステータスの一つであるくらいに、値段が張るのだ。
しかし本は知識と知恵の保管庫である。何より、読書は面白くて楽しい。そりゃ文字を読めるようになったら、みんなだって読みたいよなあ……。
先にこの平民学校に俺が寄贈した本10冊、全員が争うようにして何度も読んでいるらしい。
「紙についてですが、面白い情報を得ましたよ閣下」
あ、備品を運び終わったマオンが話を持ちかけてきた。
つまり金になる可能性のある情報だってことだ。
「紙の特産地は河の近くにあるのだそうです。そして、特定の草木を原料としている」
「その草木があればここでも行けそうってことか」
「ただ、その名前や工法は……最大の機密とされていました」
「……だよなあ」
せめてヒントがあればなあ……。
「あら、それなら存じておりますわ。パルベッヘル公爵領の特産品については、全て卒業論文で研究しましたのよ」
エレーナ嬢がとんでもないことを言い出した!!!
実家の機密をバラすと言っているのだ。
「えっ、あっ」
「ただ……一枚一枚が手作りですので、本が沢山欲しいのには間に合いませんわ」
「あ、あの……お話だけでも聞かせて頂けないでしょうか……?」
せめて、その草木の正体だけでも……あの、その……。
でも『いえ、それは出来ませんわ』って断るだろうなと俺が思っていたら、
「それよりも魔道器と組み合わせて大量に生産する方法を編みだしませんこと?パルベッヘル公爵領の特産品である高級紙とは競合しない、安価な紙を」
もっとヤバいことを言い出した!!!!!
「あと……写本についてなのですけれども」
俺は直感した。
紙以上に、彼女はヤバいことを言い出す。
「文字は21文字、小文字やその他を合わせても合計50文字もありません、数字や記号を加えてもたかが知れているのに、どうして全て手で書き写す必要があるのでしょうか」
「あっ、あっ」
「ふふ、詳しいことはこの平民学校の視察が終わって、サマンサとミアナを休ませたらお話ししますから」
天使みたいな悪魔……いや、この世界で一番美しい悪魔みたいな顔をしてエレーナ嬢は微笑んだ。
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