第12話 復興と金儲けと慈善と・③
今では領民のみんなには最新の魔道器を、試運転も兼ねて無償で配布している。
安全性の確保のためと、やっぱり実際の使用に当たって問題が起きたり、ここをもっとこう改善した方が良いんじゃないかという要望を吸い取りたかったから。
「凄いんだぜ、ヴィクトルは!」
ドミニクが自慢しまくるから、俺はひたすら小さくなるしか出来ない。
「今じゃオールー公爵領ほど住みやすくて豊かな領地はどこにもない!」
止めてくれ、暗に王都を下に扱うな!
「私もそう思いますわ」
「えっ、あっ」
エレーナ嬢が頬を染めている。
まさか全面的に同意されるとは思っていなかった。
「歴史ある建物こそ見かけませんでしたが(※洪水で流されるか魔族に壊されました)、街や村を歩く人々の顔がとても明るくて、平民でさえ清潔な服を着ていたのですもの。市場を通った時は王都以上に活気がありましたし、売られている品物も一目で分かる一級品ばかり。……王都は華やかに見えますが実は物乞いや犯罪者……他には野犬が多くて、貴族の邸宅街から離れるととても治安が悪いのです。あちこちに貧民街があるくらいですの。でも貴族も王家も……何も変えようとしないのですわ」
そうだったんですか……。
「私、先ほど2階の窓から街を見ていましたのよ。平民の子供達が広場で遊んでいました。その全員が汚れていない服を着て、仲良くボールを追いかけて……私はオールー公爵領に来て本当に良かったと確信しましたわ」
それはみんなが真っ当に働いてくれているからで、俺はただ余っている金を回しているだけ……です。
――トン、トン、とドアがノックされて執事のマクラーンさんが顔を出す。
「お話中に失礼致します。閣下、平民学校の視察のお時間が近うございます」
「あっ、すぐに行く!」
俺が椅子から立ち上がった時、エレーナ嬢が驚きの声を上げた。
「平民学校……?まさかこちらでは平民でも学校に通うことが許されるのでしょうか!?」
そうか、彼女は王立ギムナージ学園に通っていたはずだ。貴族と王族のみが通える……。
「あっ、はい」
俺は慌てて座り直して、手短に説明する。
「オールー公爵領には雨季があって、その間は農業も何も出来ないので、せめて識字率を上げようと思いまして。もし有能な人が見つかったら、ウチの行政庁や騎士団に勧誘出来ますし。それと、小さな子供の託児所としても……。文字を読み書きできれば、魔道器の作成や修理の効率も上がりますし……」
平民学校は洪水の時の避難施設兼非常食の保管庫としても運用する予定なので、街や村にそれぞれ作っても邪魔にはならない……と思いたい。
今日は、お試しにオールーンの街に半年前に作った平民学校の、初めての様子見だった。
学長兼教師として派遣したレナリアさん達から先に上がっている報告では、誰でも使える安価な筆記具が欲しいとあったので、今日は【筆記板】と【硬筆】を持っていって試用して貰う手筈になっている。
「私も視察に同行したらお邪魔でしょうか?」
えっ。エレーナ嬢が身を乗り出している。
「じゃ、邪魔だなんて!でも、その、旅の疲れが」
「このお茶を頂いた瞬間に消えましたわ」
……ここまで意欲的なのに、お断りしたら逆に失礼かも知れない。
俺はマクラーンさんに最上級の馬車と護衛の騎士団員を追加で手配してくれるように頼んだ。
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