第5話 地味豚公爵の人望・④

 エレーナ嬢の体に差し障りが無いように何度も休憩して、普通なら3日で済む道のりを5日かけてオールーンの街に到着した。

俺がエレーナ嬢ご一行を別館に案内し、2階で軽く休憩と荷ほどきをして貰っていると、

「バッカヤロ――――――!!!!」

館の前のあたりから聞き慣れた大声がした。

別館の1階、執務室にいた俺は飛び上がる。

「ヴィクトルの野郎、水臭いじゃねえかよオ――――――――――――――――――――――――!!!!」

「ドミニク!貴様!」

こりゃ、またグレイグと揉めているな。

俺は慌てて走っていたが、妙に落ち着いていた。

これでも窓からいきなり飛び込んでこないだけマシになったのだ。

窓をうっかり割ってコンニチハ!……と言うのを何度も繰り返した後で。

「ドミニク!!!」

「ようヴィクトル!テメエ何て白々しい野郎だ!」

角とコウモリの翼が生えた魔族がグレイグと組み合って筋肉でぶつかり合っていた。

……この、魔族のドミニクは青年に見えるが実年齢は190歳で、これでも魔族の王こと魔王なのである。

「義兄弟の癖に何だ!俺様に婚約したことを知らせないとか冗談じゃねえぞ!!!!」

俺が慌てて二人を引き剥がすと、ドミニクは俺に詰め寄ってきた。

「だって、またマサムルン伯爵令嬢の時みたいになると思っていたんだよ!」

「それなら仕方ねえな。で、美人なんだろ?」

「……そりゃエレーナ嬢は、俺なんかが側にいるのがいたたまれないくらいの……美人だ」

「自信を持てと俺様に何度言わせるんだ!ヴィクトル、テメエは男の中の男だ!」

「魔王、貴様は嫌いだが言っていることはもっともである」

グレイグまで腕組みして賛同するなよ!

「いいかヴィクトル」あっという間に俺はドミニクにバンバンと背中を叩かれる。手加減はしてくれているが、一撃が何せ重い。「テメエはな、魔族の命の恩人だ。テメエを蔑ろにする連中なんざ魔族総動員で潰してやるぜ!」

「いや、その、どうか穏便にさ……!」

そこに鋭い女の声が次々と響いた。

「いけませんお嬢様!」

「あれに近づいてはなりません!」

しまった!

王都の人にとってまだ魔族は『邪神を崇める邪教の徒』と思われているんだ!

「あら。……分かりましたわ」

エレーナ嬢は玄関を出る前に美人メイドのサマンサとミアナの制止に素直に従ったが、俺達を見て落ち着いた顔で、

「ヴィクトル様、もしよろしかったらそちらのお方共々、お話を聞かせていただけませんか」

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