第11話 リアからの特別なお礼

「んっ! あ、アルフィ様っ! す、凄いですっ! 初めてなのに……」

「えっと、もっとゆっくりの方が良いのか?」

「い、いえ。大丈夫です。アルフィ様の好きなように動いてください。私が合わせますから……っ! い、今のも良いですっ!」


 俺の突きをリアが受け止め、嬉しそうに顔を輝かせる。

 ……正直、俺はもう汗だくなのだが、流石は獣人族といったところだろうか。

 身体能力に優れたリアは、何度も俺に突かれているというのに、それでもニコニコと笑顔を絶やさない。

 俺も男なので、少しはリアを満足させたいと思い、それから何度か突き続けたのだが……TEのアルフは魔法型だし、俺も体力がある方ではない。


「もう、限界だ……リア、いくぞっ! これが最後だっ!」

「はいっ! アルフィ様、来てくださいっ!」

「いくぞ……はぁっ!」

「あっ! アルフィ様っ! 凄く良いですっ! 渾身の一撃でした! しっかり腰が入って、私の身体にまで衝撃が伝わってきましたよ」

「そうか……」

「あっ! アルフィ様っ!? す、すみません! 嬉しくて、ついやり過ぎちゃいましたっ!」


 全てを出し切り、体力を使い果たした俺は、ぐったりしてリアに身体を預ける事に。

 まだまだ元気なリアと比べて情けないが、もう無理だ。これ以上動けそうにない。


 しかし……リアにお礼と言われ、何をするのかと思っていたら、まさか格闘技の稽古だったとはな。

 家の外で基本的な型を教わり、正拳突きを何度か行ったと思ったら、突如実践訓練が始まる。

 リアに一撃でも当てられたら終わりと言われ、最初は本気で殴る訳には……と思っていたのだが、獣人族のリアに面白いくらいに避けられ、手加減なしの突きは片手で止められた。

 いや、無理だよ。魔法を使って良いならまだしも、純粋な身体能力だけでは、獣人族に勝てないって。


 指一本動かせない状況でリアに抱きつく格好になっているのだが、獣人族のリアは軽く俺を抱きかかえ、横に寝かせてくれた。

 目も開かないので、今がどういう状況かはわからないが、ベッドに寝かせてくれているのだろう。

 マットレスは硬めだが、枕は凄く柔らかい。リアは枕にこだわるタイプなのかもな。

 そんな事を考えていると、思っていたよりも近くからリアの声が聞こえてくる。


「アルフィ様。私が予想していたよりも、遥かに筋が良いです。人間族の方で、これ程までに動けるなんて」


 うーん。俺は返事をする体力も無いぞ? リアに手も足も出なかったし。

 しかし、TEの世界で生きていく為にリアに鍛えてもらうのは、アリかもしれない。

 こう言っては何だけど、リアは魔王化する前のイザベラが一撃で倒せるような魔物に殺されていた。

 つまり、リアは獣人族の中では弱い……というか、そもそも小柄で中学生くらいの容姿だしな。

 そのリアに全く歯が立たないというのは、裏ボス戦で主人公たちと戦うかもしれない俺にとっては非常にマズい。


「……リア。俺、頑張るよ。もっと強くなれるように」

「――っ! は、はいっ! 是非ともお願いしますっ! 私も全力でサポートしますので、頑張りましょう!」


 体力は尽きたが、なんとか気力を振り絞って、これからも鍛えて欲しいとリアに告げる。

 リアは俺に恩返しが出来るのが嬉しいのか、協力してくれるようだ。

 まぁアルフ自身は、正直言って弱い……というか、ラスボスの魔王イザベラを倒した主人公たちに比べると、魔法以外のステータスは全て劣るからな。

 裏ボス戦というだけあって、本編をクリアした主人公たちが既に強くなり過ぎているというのもあるが。


「アルフィ様には、何としてもお父さんに勝ってもらって、村の掟を……」


 続けてリアが何か言っているが、体力も気力も使い果たした俺は、既に段々と意識が薄れていて……話の途中で眠ってしまった。

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