第8話 新米メイドのドロシーへの依頼
「ドロシーに頼みたい事が二つあるんだが、その前に聞きたい事がある」
「わ、わかりました! 何でしょうか」
「今回の仕事は外に出る仕事なんだが、ドロシーはメイドとして外へ行く仕事はあるだろうか。例えばおつかいとか、買い物とか」
「うーん。まだ今日からお仕事をさせてもらったばかりなので、全てを把握している訳ではありませんが、たぶんあるかと。というか、ご主人様からの依頼だと言えば、幾らでも出られると思いますけど」
あ、確かに。
今回の仕事は獣人族の村に住む事に直結するので、誰にも……特に、イザベラにバレないようにと思っていたんだが、気にし過ぎだったか。
「わかった。じゃあ、一つ目の依頼だ。街の薬屋に行って、ウェーストニール病という病気を治す薬を買ってきて欲しい」
「ウェーストニール病ですか? それなら買いに行かなくても、薬箱にありますよ?」
「え? そうなのか?」
「はい。流行病ですからね。薬を飲めばすぐに治りますが、逆に言うと治るまでは辛いですからね。一般的な薬やポーションは揃っていますよ」
おぉ、流石は領主というだけあるな。最悪、別の街の薬屋などを回って数日掛かると思っていたが、一つ目の問題が解決してしまった。
というか、そもそもTEの世界ではメジャーな病気なのか。
もしかして、日本で言うインフルエンザ的な奴かな? まぁインフルエンザみたいに感染力が高かったら嫌だが。
「じゃあ、すまないが後でその薬と、メジャーな薬を幾つか取ってきてくれないだろうか」
「はい、わかりましたー!」
「それから二つ目なんだが……ドロシーは、イザベラに無理矢理連れて来られた訳なんだが、ご両親は大丈夫なのか?」
「あ、私は元々孤児なので問題ありません」
「すまん」
「いえ、本当に大丈夫ですよ。それに、何か食べ物を分けて貰えないかと、教会へ行こうとしていたくらいですし、こんなに凄いお屋敷で働かせていただけて、ご飯にお風呂、メイド服があるなんて、最高ですっ!」
なるほど。そういう意味では、雇用を生み出して、人助けにもなっている……のか?
ただ、俺が転生する前のアルフの趣味なのか、屋敷にほぼ女性しか居ないのだが。
「そういう事なら……改めて二つ目の依頼だ。老若男女は問わない……が、出来ればドロシーくらいの年齢の者を一人、紹介してくれないか? この屋敷の外の者を」
「えっと、それはつまり、私が住んで居たスラム街に居る人を……って事ですか?」
「あぁ。どんな仕事をするかは、ドロシーが連れてきた者と相談して決めるが……最低でも、店で買い物は出来て欲しいかな」
「文字が読めれば良いって感じですか?」
「そうだな。あとは、人当たりの良い者が望ましい。どうだろうか」
そう言うと、ドロシーが少し考え始め、誰か思い付いたのか、パッと顔を上げる。
「あの、私のお友達でも良い……でしょうか?」
「もちろんだ。もしも、ドロシーが連れてきた者が良い仕事をしてくれたら、二人め三人めと、もっと人を増やすかもしれない。それこそ、スラム街に住む人全員……は言い過ぎだが、何人かに仕事を与えられる」
「わ、わかりましたっ! 早速、聞きに行ってきますね!」
「いや、気持ちはありがたいが、今から行けば帰りが暗くなる。そんな時間に、外をドロシー一人で歩かせる訳にはいかない。明日にしよう」
「ご主人様……わ、私なんかに、お気遣いくださり、ありがとうございます。それに、スラムの子供たちにお仕事を……悪徳領主って噂を聞いていましたけど、もうっ! 全然違うじゃないですかっ! 誰でしょう、あんな悪い噂を流したのは」
い、一体どんな噂が流れているのだろうか。
ちょっと聞いてみたい気もするが……今の悪徳領主アルフは俺なので、心臓に悪そうだ。
とりあえず、やめておこうか。
「そうだ。あと最後に、ちょっとそこに立っていてくれ」
「ここ……ですか?」
「あぁ。≪奴隷召喚≫……≪反転≫」
「……ご主人様? 今、何を……?」
「いや、気にしないでくれ。じゃあ、薬と紹介の件はよろしく頼む。あと、どちらも秘密裏に……この屋敷で働く者に気付かれないように頼む」
「わかりましたっ! ご主人様の為に、頑張りますっ!」
そう言って、ドロシーがパタパタと部屋を出て行った。
いや、人の紹介だけでなく、薬もこっそり持ってきて欲しかったのだが……まぁもしも誰かに聞かれたら、まだ体力が完全回復していないので、薬を頼んだ事にして誤魔化すか。
実験も成功したし、獣人族の村でのスローライフ生活は、ドロシー次第だな。
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